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出口のない海
2006年9月16日公開

出口のない海

1212006年9月16日公開

cyborg_she_loves

1.0

偽善映画

 あの結末は、並木少尉に遺書を書く時間を与えるためだけに作られたセッティングで、ここで観客よ、さあ泣け、というわけでしょうが、あの死に方は他のどんな訓練中にも起こりうる一般的な事故死の一種にすぎず、回天という兵器の愚劣さ・狂気を表現するシーンに全然なっていません。自動車でも飛行機でも機器の故障で乗員が命を落とすことはありえます。  回天という兵器の不条理さの表現も、ぜんぜん不十分ですね。レーダーを持たないゆえに、航行中の艦船に命中させるには、一度浮上して潜望鏡目視で相手の進行方向と速度を観測し、命中予測時の相手艦船の位置を計算し、潜行してストップウォッチを見ながら目標時間に正確に目標位置に達するよう進行方向と速度を調節しながら操縦するという、それこそ野球に例えたら、外野手が、飛んでくる打球の方向と速度を目視で見定めておいてから、目をつむったまま方向と速度を調節しながら落下点まで走っていってキャッチする、というのに近い技術が必要だったこと(要するに、発射された回天の大半は命中しなかったということです)。  母艦潜水艦の側も、回天や相手艦船の位置を正確に特定する手段を持たなかったため、回天発進から30分以内に爆発音が聞こえたら命中と見なす、1時間前後の爆発音なら燃料切れの時間と一致するので自爆と見なす、などという、まったく曖昧な推測で戦果を報告していたこと(人間を乗せて爆弾を発射しながらその結果がどうなったか正確には誰も知らないなんて、「犬死に」どころかゴミ同然じゃないですか!)。  そういうことが、まったく描かれていませんね。非常に残虐な兵器ではあるが、しかし乗員はあくまでお国のためにみんな一定の戦果をあげて命を落としたのだ、という意識で作られている。ゴミ同然に海底の藻屑となって何の意味もなく死んでいったたくさんの人たちがいたことが、なんにも描かれていない。  熱演された出演者の皆さんには気の毒ですが、偽善映画だと思います。

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