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麦の穂をゆらす風
2006年11月18日公開

麦の穂をゆらす風

THE WIND THAT SHAKES THE BARLEY

1262006年11月18日公開

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5.0

ネタバレ直視しづらいテーマ

 96年にリーアム=ニーソン氏がアイルランド独立戦争のリーダー・マイケル=コリンズを演じた。あれから10年、末端の活動家たちを描いたのが「麦の穂をゆらす風」である。  M=コリンズは既に歴史上の人物となったが、末端の活動家たちの軋轢は今でも現在進行形である。アイルランドを代表するロックバンドU2のボノ氏がIRAの爆弾テロを批判したことで物議を醸したのが僅か20年前である。(余談1)だから、今回の作品は内戦問題に一層踏み込んだものと言えよう。  主人公は独立闘争の末端リーダーを務める兄弟である。物語はこの兄と弟を軸に進められる。独立闘争に熱心な理想主義の兄に対して、気が優しく現実的で戦嫌いの弟。ところが弟は英国軍の狼藉を目の当たりにしてから気が変わり兄と行動を共にする。闘争を守るため裏切り者を弟は手にかける。その中には幼馴染もいた。  精神的にも肉体的にも多大な犠牲を払って勝ち取ったのが、完全独立ではなく自治領の地位だった。兄は政治的判断でその条件に妥協し、弟は納得できず樹立したばかりのアイルランド政府に反逆して捕らえられ、兄が泣きながら指揮する銃殺隊によって処刑される。(余談2)  この兄と弟の物悲しく切ないコントラストを帯びた相関関係が、この作品の真髄である。また内戦の悲しさを象徴しているがステレオタイプではない。  他のレビュアー氏らに多い感想に「アイルランドは馴染みが無い」というものがある。ところが実はそうでもない。アイルランドとイギリスの関係は、韓国朝鮮と日本の関係に似ている部分がある。アイルランドと韓国朝鮮は隣国に併合された歴史があるし、形は違えど南北分断が現在進行形である。日本の芸能界で在日コリアンの活躍が目立っているのと同じように、在英アイリッシュの活躍も目立っている。(余談3)  むかし、来日したイギリス人留学生に在日コリアンの問題について質問されたとき、私はアイリッシュの問題に似ていると答えたものだ。だから馴染みが無いどころか、日本人にとっても間近い問題であり、本来は辛い内容の映画である。  日本では「パッチギ!」程度の描写でさえも嫌韓バッシングが大挙行われる。在日コリアンにとっても評判は必ずしも良くない。それだけ双方はまだまだ正視できないデリケートな政治的問題である。  ケン=ローチ監督はイギリス人?で、キリアン=マーフィ氏ら俳優はアイルランド人。イギリスを完璧に悪者に描いているのでイギリスでのバッシングはどうなのだろうか? 内戦の被害者遺族が健在のアイルランドでの評判はどうなのだろうか?  (余談1)アメリカでの「ヨシュア・トゥリー・ツアー」だったか、「Sunday Bloody Sunday」の間奏での発言。「革命なんて糞くらえだ!」 (余談2)優しい人間が戦うと決めると過激派に転ずることが多々ある。  条約批准をめぐっての議論がよくできていた。日本人でも、会社や運動団体を立ち上げた経験のある人には身につまされる場面ではないか。双方の意見に理があり、双方の感情が当然のものであるがゆえの平行線。  欧米の秀作に多い特徴は、ディスカッション場面が優れていることである。 (余談3)ビートルズが代表例。Paul McCartneyの苗字にMcが付くのはアイリッシュ特有。意味は、カートニーの子孫。  ポールはナイトを表すSirの称号をもっている。日本的に言えばポール=マッカートニー卿だ。ビートルズの成功でメンバー4人に勲章を授けられたためなのだが、後にジョン=レノンは返上している。理由は大英帝国の世界侵略に貢献した者に授ける性格の勲章だからだ。さらにジョンはIRAに資金援助までしている。

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