レビュー一覧に戻る
墨攻
2007年2月3日公開無料配信

墨攻

A BATTLE OF WITS

1332007年2月3日公開

bar********

3.0

ネタバレ★3が妥当だと思います

墨攻。はるか昔の中国戦国時代に、慈愛・非攻を説いた墨家という人たちがいた、その墨家の一人である革離という男が、滅亡寸前の梁という国にやってきて、降伏に傾いていた人々に対し、徹底抗戦を訴える。 という、弱小国が大国に対し立ち向かうというストーリーになっています。 話の枠組みとしてはこれだけでも面白いのですが、ここでもう二つほど、この『墨攻』はモチーフとして挙げているものがありまして、それが君主の裏切りと、革離が解く「慈愛」という概念です。 革離は見事な軍略家ぶりを発揮して、見事に大軍を撃退しますが、人心が革離に傾きつつあるのを、君主である梁王は、苦々しく思います。功績が全て革離に行ってしまうのを、謀反の証だとして、革離を捕らえて処刑しようとします。 この内部混乱によって梁は崩壊し、やがては敵軍に占領されてしまう事態に。革離はそれでも梁の人々を見捨てずに、逃亡先から戻ってきます。 そうして敵の将軍をだます計略を見せて、なんと撤退させることに成功しますが、手柄はすべて梁王のものとなり、革離は国を去っていく。 革離の思想は「慈愛」、戦乱を憎む姿は、戦乱の世と相いれないかもしれませんが、それでも思想に共感した者たちが、梁という国・戦乱という愚かさに嫌気が差し、武器を置いて去っていくシーンが描かれています。 このように、この映画は3本の柱があり、それらが同時に存在する、やや複雑なストーリーだという事ができると思います。 この構造は「面白さが3本もある」という見方もできなくはないですが、もう少し構造的に奥深くまで映画を楽しみたいという人からすれば、たいそう無駄のある、お互いがお互いを潰しあっているような仕掛けに見える事でしょう。 私もこの3本柱が、この映画の良いところも、悪いところも同時に作り出していると思います(というより、原作小説からそのように無駄がある構造なのかもしれません)。 なぜ私がこのように言うかといえば、それらは互いに矛盾している効果を生んでいるからです。 まず一番の柱である「弱小国が大国を迎え撃つ」という設定。もはやこれだけで重厚な一本の作品ができるほど、十分な設定なわけです。 なぜならそれは必然的に軍略家の活躍するところとなり、軍略家の天才的な仕掛けの数々は、見ている方からすれば、ずいぶん知的で面白い驚きの連続となるからです。 しかし、原作小説家か監督には、そのような天才的な軍略の数々を編み出す才能がないと自分で思ったのか、その設定でやり切ることはせずに(実際に革離の軍略は丁寧に披露されることなく、ざっくばらんに敵を撃退している様子しか映し出されません)、梁王の嫉妬からの裏切りというファクターを導入します。 これは歴史的には本当にたくさんある事態であり、有能な将軍がしばしば被ってきた被害で、君主が前線に出ずに王宮でのんきにしている場合は高い確率でこうなると、マキャヴェッリも述べています。なので歴史的な根拠がないわけでなく、十分にありうる事態であるだけに、説得力の強さも見せています。 しかしながら、第一の設定である「弱小国が大国を迎え撃つ」というものだけで充分であるところに、それを消し去ってしまうような「君主の裏切り」という第二の設定を盛り込むということは、第一の設定の効果をまさに消し去ってしまうことなので、矛盾ということができると思います。 なのでこの『墨攻』は後半部から全く違った映画になってしまい、前半部の盛り上がりは急に静まってしまい、盛り上がりの欠けた、暗い、ネチネチとしたような情感が演出されるようになってきます。これは前半部の効果を無にするということと同義で、ならば最初から前半部を省略して、後半部から始めた方が、まとまりのある映画ができたと思います。 しかし、功労者である革離が迫害されてしまうという矛盾に、悲劇性を見いだせないわけでなく、一定の効果は生まれていると思いますが、もしそれがこの映画の本当のモチーフだとすれば、前半の防戦シーンのスペクタクルは無駄となり、説明ができなくなってしまいます。おそらくその悲劇性は本作の様々な要素の一つとして考えられていて、それが一番の要素というわけではなかったと思います。 また3番目の柱である「慈愛」ですが、これは映画全体の構造からすれば、取って付けたような感じがあり、革離の行動も一貫性があったわけではありません。言うまでもないことですが、戦争と慈愛は矛盾しています。ならば最初から革離は厳密にその妥協点を出しておかねばならなかった。ラストになって、敵将に撤退を促す時の「慈愛」を説く姿は、今までの彼と大きく矛盾しています(言葉上は矛盾していなくても、態度が矛盾しています)。なので取ってつけたような感じがあるということです。 以上を踏まえれば、良くも悪くもない★3が妥当だと思います

閲覧数2,822