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パフューム ある人殺しの物語 (2006)

PERFUME: THE STORY OF A MURDERER

監督
トム・ティクヴァ
  • みたいムービー 1,404
  • みたログ 5,035

3.56 / 評価:1789件

映像美醜にまみれた《愛と喪失の寓話》

  • スヱ さん
  • 2007年4月20日 21時27分
  • 閲覧数 1471
  • 役立ち度 94
    • 総合評価
    • ★★★★★

マイッタ。最終日に映画館に滑り込んでほんとーに良かった…!
これは劇場で“体験”するべき作品だ。でないと魅力が半減する。
今後自宅で観られる方は、テレビでよく出るテロップ「へやをあかるくして、できるだけはなれてみてください」に逆らっての鑑賞を強くオススメする。
あ、でも何か起こった時のクレームはティクヴァ監督へお願いしまス。


寒気を覚える程のおぞましい臭い、普段意識しない自然の匂いから、恍惚を覚える香りまで。
あらゆるものを劇場に匂わせて魅せた圧倒的映像美醜と、
官能を呼び覚ますような光と旋律のコントラストに飲み込まれた。

俯瞰からぐっと、グルヌイユの匂いしか頭にないような表情と共にアップになっていく様々な“香り”に、どこまでも想像力をかきたてられる。
こんなにも想像力を要した映画は初めてだ。
年中つまりっぱなしの私の鼻でも嗅ぐことができたその香りに、ノックアウトされた。

テンポの良い展開は長さを全く感じさせず、ユーモア加減の絶妙さは観客を飽きさせずに
ぐいぐいと香りの世界へ引きずり込む。

キャストも絶妙だ。どこか無垢な瞳で嗅ぎに嗅いだ、ベン・ウィショー。
コミカルな演技とオチに笑える、化粧してかわいいダスティン・ホフマン。(アップは危険)
いつものダミ声での幅広い演技がスゴい、アラン・リックマン。
そして、アップに耐えまくる可憐な美しさのレイチェル・ハード=ウッド。
男性方はさぞどぎまぎしたのではないだろうか。私は女でもどぎまぎした。


しかしどうやらこの映画、ラストへの展開を許容できるかどうかで賛否が分かれるようだ。
まぁアレには私も、最初は笑ってしまった。

だが、この物語は猟奇殺人のサスペンスではない。グロテスクなホラーでもない。
美と醜の両極端がみられたように、これは一人の哀れな男の《愛と喪失の寓話》なのだ。
観る時には是非、イソップ物語などを読むように、この映画を“読んで”みてはどうだろうか?

鑑賞後は妙に匂いを意識してしまうし、色んな意味で観て損は無い。
映画という“総合芸術”を、存分に堪能することができる作品だ。


――無垢であるからこその残酷。
このような両極端の矛盾を内包する作品が、私は好きだ。でも混乱する。でも、惹かれる。
これこそ人間の矛盾なのかもしれない。




【以下ネタバレ勝手に解釈】




匂いは、グルヌイユの世界の全てだ。
匂いが無いと言う事は、彼にとっては存在しないも同じ。
自分は無臭だと知った彼は、今までで一番惹かれたプラム売りの少女の香りを再現し、自分の存在を知らしめようとする。
「この究極の香りで、世界は自分にひれ伏すだろう。臭いがなくても自分を認めるだろう」と。

処刑場にて、すべては彼が企んだ通りになった。
だがその手から香りを染み込ませたハンカチが離れた時、人々の関心はハンカチに移った。
グルヌイユは思い知る。人々は自分を認めたのではない。香りしか目にないのだと。
今まで香りしか感じていなかったグルヌイユのように。
これは全てが逆転した瞬間でもある。

そして突然、人々は隣人を愛し始める。凄まじい750Pである。(すみません)
愛を知らないグルヌイユにとって、それは予想外の出来事だったのではないか。
何が起こったのかわからない彼は、籠から零れ落ちるプラムと、目の前で愛し合う人々を見て、知る。

あの自分が最も惹かれたプラム売りの少女の香り。あれは愛の香りだったのだと。
本当は愛を与え、与えられたかったのだと。目の前で愛し合う人々のように。
グルヌイユはやっと気付いた。
彼が永遠に保存しておきたいと思い、作った香り――それは、愛だったのだ。

何もかもが遅かった。グルヌイユは全てを失ったかに思えた。
しかし、ローラの父親であるリシだけは、娘を殺された憎しみをぶつけてきた。
どんな形でも自分の存在を認めてくれるリシを、彼は受け止めようとした。
――しかしリシもまた、その究極の愛の香りの前に屈した。

グルヌイユは無となった。
全てに絶望し、ただ愛されたいという想いが駆け巡った。
究極の香水で世界を支配できるのに、彼はただ、愛されることを望んだのだ。

彼は生まれおちた場所に還っていった。
愛されたくて自らに多量の愛を滴らせたが、強すぎる愛は彼自身を奪ったのみだった。
貪られるその時に浮かんだ表情は、やっと愛されたことへの安堵だろうか。
それが本当の愛ではないことへの絶望だろうか。
……それとも?

最後に瓶からこぼれた一滴。その愛は時に人を満たし、時に人を狂わせる。
空っぽになった香水瓶は、愛に満たされなかった彼自身の姿でもあるのだろう。
空っぽの人間は、哀しい。そんなことを思った。


…あなたの香水瓶は、どのくらい詰まっていますか?
 
 
 
 
 
 
 

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