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パイルドライバー
2007年1月13日公開

パイルドライバー

992007年1月13日公開

taj********

3.0

小ぶりながら、方向性を含めて◎な出来。

 渋谷シネ・ラ・セットが贈る新春ヤクザ2部作(勝手に命名)の一発目。物語設定や演出に突拍子な冒険が見られますが、率直な人生へのメッセージが込められ、小ぶりながら王道の青春映画に仕上がっています。  お話の本筋は、ダメ青年が自分の殻を破って成長するという、ごく普通の青春物。対照的なのが舞台設定。「ヤクザ幹部養成学校」なる、21世紀型のシノギ―表看板が「人生のスペシャリスト養成学校」、詐欺的受験料+詐欺的講習料、しかも本当は「鉄砲玉」養成…と、演出次第では血みどろ暗黒作品も可能なネタの数々です。実話に基づくネタもあるとか(こわっ)。  本筋と舞台設定の落差以外にも、本作では様々なギャップを利用して僕らを映画に引き込みます。  たとえば、ヤクザの描き方。見かけはアル中だったり、ドスの利いた(本物の)ヤクザですが、彼らが教える「ヤクザのイロハ」は、カタギの僕らにもすんなり受け入れられるものです。教官鬼ハム(麿赤児さん)のいう「ハッタリでもいいから自信を持て!」はその白眉で、心の内面ばかり重視する近年の「カタギ」界に対する強烈な批判になっています。  また、ソーイチの軟弱ニート青年ぶりも、ヤクザの世界とは対照的な存在です。元来ヤクザ分の多い「同級生」セイジ(藤原一裕さん)を主人公にしなかった点からも、「教育」を通じた青年の成長ぶりを印象づけるための人物設定であることがわかります。ソーイチの姿は単純に笑えるだけでなく、ソーイチの如きダメ人間でも(手段によっては)生まれかわれるという僕らへのメッセージでしょうか。ぬるま湯はいかんのです…ね。  しかも、このソーイチに二重の(!)恋愛譚を準備して、モテないカタギ時代との格差は決定的になります(うらやましい)。ソーイチが惚れるのは、偶然にも「二次試験」の一環で差し押さえた物件の所有者(カタギ)の娘さん。ソーイチに惚れるのは、「校長」の恋人(極道のナントカですね)。カタギとヤクザの女から、カタギのコを選んでソーイチがいう「君を助けたいんだ!」は、ソーイチに主体性が備わったことを象徴する、(カタギ)青春映画として重要な台詞でしょう。  「ためになるヤクザ教育」「ニートの大変貌」「ニートの恋愛」という<矛盾>を、徹底的にコミカルに描くおかげで、僕らは気楽にヤクザを疑似体験しつつ、ヤクザもカタギも超えた、人間としての自立という普遍的な青春映画のテーマを追求できるのです。本作における石川均監督の発想と演出には、ヤクザものでありながらカタギ的安心感(なんじゃそりゃ)があります。  さて…本作のウリである、ミュージカルシーン。発想には大拍手ですが、いざ現実は厳しいな、という個人的な感想です。  突如台詞が音楽に載り、周囲の人物もそれにあわせて踊りだす…って、石川監督はインド映画をヒントにしたと想像されます。たとえば、ソーイチの相手役・リズ(武田真理子さん)の露出の多い衣装やセクシーな仕草は、ボリウッドでいう「アイテム・ガール」(本筋に関係なく、歌の中でセクシーさを売りに踊る女優)そっくり。そもそも、善良なヤクザの成長と恋愛のコメディーってインド映画の王道ですし。  問題は、このミュージカルが貧弱すぎる点です。総制作費の半分以上を投入し、歌と踊りだけで興行成績を決めるほどの気合が「本場」では要求されるのですから、製作者の着眼点は非常に(個人的に)評価できるけれども、この予算規模の映画では避けたほうが無難だったかもしれません(実際、本作の低予算撮影ぶりが最も露骨に感じられたのがこのミュージカルシーンでした)。役者の歌声も、お世辞にも上手とはいえません。ミュージカルの金欠感が本作全体に小ぶりな印象を与えてしまいます。ボリウッド感覚の採用という発想はいいのに、残念な結果になってしまいました(泣)。  総合的には、ヤクザ物語のなかに、ダメ青年の自立や恋愛話をハチャメチャに織り交ぜることに成功した、バランスのとれた青春映画。予算面でミュージカルその他に多少無理がありましたが、石川監督の方向性は実に正しいと思います(笑)。☆3つとしますが、渋谷に行ったら観て損はないでしょう。1月27日公開のシネ・ラ・セット新春ヤクザ第2作「FM89.3(ヤクザ)」も期待です。

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