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約束の旅路 (2005)

VA, VIS ET DEVIENS/GO, SEE, AND BECOME/LIVE AND BECOME

監督
ラデュ・ミヘイレアニュ
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4.26 / 評価:81件

感動的一大叙情詩

  • Kurosawapapa さん
  • 2007年8月27日 18時10分
  • 役立ち度 40
    • 総合評価
    • ★★★★★

この映画は、主人公シュロモの、祖国エチオピア脱出から、イスラエルでの成長という、彼の半生を描いた一大叙情詩です。

これほどまでに、社会的、政治的問題と人間ドラマが合致した、見事な作品は見たことがありません。

それは、この映画はフィクションですが、そうとも言い切れない、史実に基づいたさまざまな問題を含んでいるからです。

・内戦
・飢餓
・難民
・人種差別

現在まで続くこの苦難の事実は、世界の人々にとっては周知の事実であり、あまりにも痛ましく堪え難いものです。
アフリカや世界に通じる、これらの問題は、近年さまざまな映画にも取り入れられていますが、見る度に、嫌悪感、無力感、そして人間の愚かさを感じ、胸を痛めます。

そして「誰が真のユダヤ人なのか?」というユダヤ民族内の問題。
エチオピア系、ロシア系、ドイツ系、スペイン系、それぞれの出身地ごとに独自の文化を持ち、対立も辞さないユダヤ人社会がこの作品の背景にあります。

シュロモが学生の時に、“赤い肌”を持つエチオピア系民族を差別から解放する宗教的議論を展開し、皆に賞賛されるシーン、
また、シュロモの祖父が、大きな木を見上げ、「あの木は我々の到着よりずっと以前からあった。土地は分かち合うべきなんだよ。」とシュロモに語りかけるシーンが、とても印象的です。

差別を否定し、平和な社会を求める、ラデュ・ミヘイレアニュ監督の強いメッセージが感じ取れます。

この作品では、主人公に更なる苦悩が加わります。
それはシュロモが、自分の出生を人に偽らなければならない、という苦しみです。

「なぜユダヤ人としてイスラエルに住まなければならないのか」「いったい自分は何者なのか」「自分の帰るべき場所はどこなのか」というアイデンティティーの欠如がシュロモを襲います。

幼年期、少年期、青年期と、3人の俳優が、主人公のシュロモを演じますが、特に幼年期演じたモシュ・アガザイ少年の、優しい、でもとても悲しい目が、心に焼き付いて離れません。

シュロモが、人目を忍んで靴を脱ぎ、裸足で歩く時の、解き放たれたような表情。
祖国の土の上を歩いているような感覚を得られるその時だけが、自分を取り戻せた瞬間だったのでしょう。

苦しみにもがく主人公、シュロモ。
この作品の見所の1つに、そんな彼を苦悩から救う、さまざまな賢者達が現れます。

宗教指導者のケス、生きる喜びを説く警察官、養家の祖父、など。
シュロモの前に次々と人情味溢れる人格者が現れ、つらい現実を乗り越えれるよう後押ししてくれます。
彼らのさり気なく喋る言葉の1つ1つに重みがあり、見る側の心に訴えかけます。

そして、シュロモを愛し、包み込む4人の女性達の存在。
生みの母親、脱出同行した偽の母ハナ、養母のヤエル、妻となるサラ。
4人に共通しているのは、気高さ、強さ、そして大きな慈愛です。
特に、養母となったヤエル(ヤエル・アベカシス)の演技は素晴らしく、実に感動的でした。

この映画は、苦難の道のりを描いたものですが、決して突き放したような作品ではありません。
終始どこかで、温かい目でシュロモは見守られているのです。
厳しい現実ゆえ、人の温もりや愛情の尊さを強く感じました。

ラストの、母親が全身を震わせて叫ぶシーンは圧巻!
あの叫びは、皆さんどう捉えたでしょうか。
歓びに感極まった老母の声にもとれますが、「これほど苦しい人生に追いやられたのはなぜだ!」という怒りの声にも聞き取れます。
これは、ラデュ・ミヘイレアニュ監督の、社会に対する叫びでもあったのかもしれません。

この映画は、生きる厳しさ、社会的問題、自我の欠如など、心に突き刺さるほどの苦難が描かれています。
しかし、それを乗り越えれるだけの希望も、沢山溢れていました。
心揺さぶられるような感動無くして見れない作品です。
久しぶりに、名作を見た、という感じでした!

詳細評価

物語
配役
演出
映像
音楽

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