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殯(もがり)の森 (2007)

監督
河瀬直美
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2.77 / 評価:283件

「ねばならない」からの解放

  • pin***** さん
  • 2018年8月16日 2時51分
  • 閲覧数 1276
  • 役立ち度 0
    • 総合評価
    • ★★★★★

1.本作を観るにあたって。
本作のセリフは聴きづらい。
これは、介護施設の場面で素人の高齢者を使いたかったからでしょう。
多くの日本人は胸式呼吸で発声するので、ぼそぼそと話すと聞き取りにくい(が、それが日常なのでリアリティはある。)
プロの役者は複式呼吸で滑舌よく話すが、一般人の話し方とは違うため、どうしても「お芝居」っぽくなる。
なので、その差を緩和するため、本作の数少ないプロの俳優も素人の方に合わせざるを得ないが致し方ないかと思う。
そこで2度目の鑑賞は字幕をオンにした。私が借りたDVDは英語字幕だけだが、簡単なフレーズが多く理解に役立った。

2.初回感想は「森を見て木を見ず」
息子の死、妻の死という過去を引きずる2人が、森をさまよう中で過去から解放されていく、というコンセプトは面白い。
関西弁も有効(注釈1)
というように、森に当たる「概要」はよく考えられている。

ただし、木にあたる細部にひっかかる場面が多い。
雨の後に、枯れ木にマッチで火をつける。
新任の真千子さんに、しげきさんと2人で車で遠出させた(しかも、携帯圏外の道を走る)。

(注釈1):関西弁には独特の空気感がある。本作の「こうしやなあかん。ってことないから」もそう。責任の所在をぼやかす。ただし、これは責任回避が目的ではなく(中にはそっちの目的で使う困った人もいますが)、本当に困っているときって、原因を追及したり責任非難したりするよりも、問題解決にむけてこれから何が出来るかを考えた方が有益な場合が多いから(旦那の「なんで手を離した」が良い例。彼は困ってないんです。亡くなった息子をだしにして、妻を叱責したいだけのしょうもない奴です。)
そういえば「ココニイルコト」でも傷心して関西支局へ来た真中瞳が、そこの堺雅人の言動をきっかけに回復していく。堺の口癖は「まぁ、ええんとちゃいます。」

3,2回目以降を見ようと思った理由。
尾野真千子の巧さ、茂野雅道のピアノ曲の心地よさ、吉野の緑の美しさ、それと感(なんかこの映画怪しい。何か見落としている、という感覚)。

4.2回目以降の感想は「森を見て木を見ず」
ただし、初回との違いは主語。
初回の主語はYOU(河瀬監督は「森を見て木を見ず」・・って、凄い偉そう。ごめんなさい)
2回目以降の主語はI(私は主体的に「森を見て木を見ないことにする」)(注釈2)
転機になったのは、2度の亡き妻の登場。
そこで2人はピアノを弾き、ダンスをする。
つまり、これはファンタジーなのだ。
そう観ると、前述のひっかかり部分などは流すべき話と思えてくる、ファンタジーなのだから。
しげきさんと真千子さんが、森から抜け出ようとしなかったことも説明できる。彼らは主体的にあの巨木の奥を目指していたのだ、「未知との遭遇」でリチャード・ドレイファスとテリー・ガ-がデビルズタワーの奥を目指していたように。実際、スイカを食べた後、真千子さんは楽しそうに「これからどこ行くん」とたずね、しげきさんは「あそこ」と山の上の方をさす。

雨が降り出し、川を渡ろうとするしげきさん。
「ごめんやし、いかんといて」と泣き叫ぶ真千子さん。多分、冒頭の夫の叱責「なんで、息子の手を離したんだよ」の事故現場がフラッシュバックしたのだろう。(注釈3)
泣く真千子さん。その頭をなでるしげきさん。支援者と被支援者の立場が変わる(これも「ねばならない」からの解放に繋がる。)
巨木に向かう途中、真千子さんが「鞄、持とか」と2度ほど声かけする。すると、しげきさんは過去のとらわれの象徴である鞄、真千子さんにさわらせなかった鞄を渡す(これも同じ)。
そして、冒頭のお坊さんの話につながる。生きているというのはご飯が美味しいという事実(大事なのはこちら)。生きている感じがしないのというのは頭で作り出した「ねばならない」に拘束されているだけ。
オルゴールを奏でながら、真千子さんも「ねばならない」から解放されていく。オルゴールの曲は、しげきさんと真子さんの思い出のピアノ曲。そのまま、同じ曲でのエンドロールに繋がる。冒頭から、終演に至るまで美しい作品です。



(注釈2)メッセージを伝える主語がYOUからIに変わる瞬間は、批判から共感に代わる瞬間でもあり、自分の中でも劇的な変化を感じる。たとえば「インセプション」でガガガ~とビル群があらぬ方向に動いて見慣れた風景が一変するのと似ている。この手の映画を観る時の醍醐味のひとつともいえる。
(注釈3)吉野郡の大台ヶ原は屋久島と並ぶ日本有数の降水地域。当然鉄砲水も多い。

おまけ。
森の癒しのついでに、自己流頭痛の治し方の紹介など。
直径70cm程度の木の幹を軽く抱えるようにして手のひらで幹を触る(手のひら同士は平行)。
私の場合、数十秒続けると頭痛が改善されます。
万人に効くかはわかりませんが、興味のある方は一度お試しあれ。

詳細評価

物語
配役
演出
映像
音楽

イメージワード

  • 知的
  • 切ない
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