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酔いどれ詩人になるまえに (2005)

FACTOTUM

監督
ベント・ハーメル
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3.68 / 評価:98件

とことん執念で作家となったダメ男の反骨

作家として原稿料だけで生きていくことは、大変なことです。
ましてや、流行作家、有名作家になれる人は本当に一握りの限られた人たちです。
試しに、あなたがご存知の、現存の小説家を数えてみてください。

日本文学の作家で、現在活躍中の小説家の名前が、スラスラと50人挙げられる方は立派なもので、100人語れる方は相当な「文学通」といえるのではないでしょうか。

そんな風に眺めてみると、純粋に小説だけで暮らしている作家は、日本国中でわずか、300人程度、どんなに多く見積もっても500人は超えないと想います。
(もちろん、ぼくのような貧しい四流作家とは別世界の話ですが…)

小さな島国ですら、こんな状況ですから、小説が世界各国で翻訳出版される、欧米の有名作家なんて、凄まじい才能の持ち主ですよね。
過去を遡っても、日本人なら誰でも名前くらい知っている夏目漱石クラスでも、世界ではほとんど無名です。しかし、漱石や鴎外、川端康成など耳にしたこともない世界諸国の人々でも、ヘミングウェーやカポーティはみんな識っています。

前置きが長くなってしまいましたが、この映画『酔いどれ詩人になるまえに』の主人公、ヘンリー・チャールズ・ブコウスキーは、すでに1994年に74歳で他界しているものの、翻訳された小説は各国で読まれ、いまだに熱狂的な読者を世界に有しています。

ただし、アメリカ文学の文壇の大いなる異端児でした。

簡単に述べさせていただくと、自分の小説をもってして、アメリカ文壇に唾を吐きつけ、『くそったれ!』と叫び続けた反骨精神の「火の玉」だった男です。
そのブコウスキーも、作家として注目されるようになったのは、50歳を過ぎた頃からでした。
小説を書き続けて25年ちかく、各出版社から無視されました。
「書いてもボツ」を四半世紀も繰り返してきた男でした。

そんな男の20代後半の怠惰な放浪生活に、ノルウェーのベント・ハーメル監督が照明を当て、『酔いどれ詩人になるまえに』が世に送り出されました。

巧い邦題をつけたものですね。
ぼくなんか、このタイトルだけで、ミニ・シアターにおびき寄せられてしまいました。人によっては、こんなにだらしなくて、つまらない作品はないかもしれません。
しかし、すこしでも文学、芸術に興味をお持ちの方には、静謐な中に、これほど味わい深い作品はないでしょう。
「感動的な」というような安易な意味ではなく、

『おいおいブコースキー、そんな無茶苦茶な生活をしていて、作家どころか、明日からどうするんだよ?』

という、《半分以上絶望的な心配》という不思議な味わいなのです。

『クラッシュ』で、黒人をあからさまに差別する硬派の警官を演じたマット・ディロンが、この作品では一変して、女と酒と競馬に溺れる怠惰な作家志望の肉体労働者を、ちょっと考えられないほど自然体でこなしていて、素直に驚かされました。

とにかく、ブコウスキーは、仕事が一か月と続きません。
仕事中でも、酒場や酒瓶が目に入ると、もういけません。
とにかく、「酒と女」の誘惑に弱く、たとえば、氷の配達を任されてバーに配達に行っても会社に戻って来ません。
上司が心配して捜しに行くと、会社の車をほったらかして、バーのカウンターで昼間からへべれけになって酔い潰れています。

この調子で職場を次々とクビになり、サンフランシスコ、エルパソ、セントルイス、ニューオリンズ、フィラデルフィア、ニューヨークと数えきれないほどアメリカ各地を放浪します。

チャランポランで怠惰ですが、どこか憎めないユーモアがあり、妙に嘘がつけません。そんなブコースキーと酒場で意気投合する女性もいて、そんな時は女性の家に転がり込み、愛想をつかされて追い出されるまで酒と愛欲の生活に浸ります。

『どうすんだよ、ブコースキー!』

と、観ているこちらが、彼の母親みたいにハラハラさせられるのですが、ただのスケベエ男、アル中男と違ったのは、女性の部屋でも、安宿でも、必ず小説を書き続けたことです。
毎週、短編小説を3~4編書いては、ニューヨークの出版社に郵送するのです。(もちろん、全部、ボツですが…)
ブコースキーの筆の速さ、多作ぶりには、非常に筆の遅いぼくなんぞは驚嘆してしまいます。酒、愛欲、そして時々は仕事…その合間を縫って週に短編小説3本とは…いやはや凄い!

そんな憎めない男を、まるでブコースキーが乗り移ったように、髭面のマット・ディロンが破滅的に、しかし、どこか微かにユーモラスに演じて、不思議なことに男の哀愁さえ漂わせ、秀逸でした。

音楽もよかった…。

しかし、世界に認められるまで、あと20数年…。

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