星ひとつの夜
4.0点
第33回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞受賞おめでとうございます. 今一番お気に入りの日本人俳優を一人選べ、と言われると、「渡辺謙」と即座に答える。 僕の心の中でこの人の様々な役柄の存在が、どんどん膨らんできたの だ。 渡辺謙出演作で僕が一番好きなのは実はこの作品である.2007年5月にTV放送されたこの作品。 ハリウッドが認めるセカイのケン・ワタナベが出演するには、はっきり言って小品という部類に属する.ちょっと地味かなとも思っていた. ところがである。 まるで舞台を見ているかの様な少人数での芝居。緻密な感情表現。ストーリーにぐいぐい引き込まれた。 それもそのはず。山田太一氏が脚本を担当しているのだ。だからこそ,渡辺謙もオファーが来た時にOKしたのだろう。 渡辺謙の役どころは、愛人殺しの殺人犯 のえん罪を着せられ、刑を終え出所した男である。 彼には妻も6歳になる一人娘もいた。だが、愛人がいたこと、殺人犯であることにより、当然、離婚。今は 18歳になる娘ともまだ会えていない。 彼は出所後、清掃会社に職を得た。安アパートに一人で住み、たった一人で粗末な夕食を済ませ、本当はほかの誰かに殺 された、かつてのいとおしい愛人の冥福を祈る。そして仕事ではコンサートホールで床をただひたすら掃除する。かつては一流商社マンであり、成功で、のぼせ 上がっていた彼。そんな複雑な過去を持つ人物を、実に丹念に演じている。 ふとしたきっかけから、交流することになった株式デイトレーダー役は、玉木宏が演じて いる。 「あなたは床を掃除している人じゃない、何か、特別なオーラを感じるんです。」という台詞がある。 おそらく玉木君の率直な気持ちを脚本の 山田太一氏が代弁したのだろう。 得したよなぁ。玉木君。 渡辺謙とがっぷり四つに組んだ人間ドラマだ。 何より、このような実に地味な人生の敗残者、という 人物像を、「明日の記憶」「硫黄島からの手紙」を演じた後であえて演じる渡辺謙の役者魂に心うたれる。 もちろん作品の持つ力というものが大前提だが。ハリ ウッドが最も注目する日本人俳優。クリント・イーストウッド監督から「偉大なる、ケン・ワタナベに敬意を表したい。」とまで言わせた人物。 その渡辺謙が演 じる人生の敗残者は、実に味わい深かった。 ***************** なお,今年の3月下旬には再び山田太一氏脚本、渡辺謙主演のテレビドラマが放映されるそうだ.今度は大人のラブコメだという。どんな作品なのか今から楽しみである.