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歩いても 歩いても (2007)

STILL WALKING

監督
是枝裕和
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  • みたログ 2,931

4.03 / 評価:1,119件

素てきな素に、素っぱだかで。

  • かんじゅーす さん
  • 2008年6月12日 0時40分
  • 閲覧数 4363
  • 役立ち度 104
    • 総合評価
    • ★★★★★

 親孝行 したいときに 親はなし

 今朝FMを聞いていると本作の監督、是枝裕和さんのインタビューが聞こえました。朝寝坊バンザイ!(「!」をつける状態ではなかったのだが)。ご自身が3年前に母親を喪ったそうです。そのあとに感じた悔い、先立っていた父親ともほとんど喋らずに逝かせた監督のやるせなさ、そんな想いを映画にこめた、と。そういうわけで冒頭の句が浮かべ、試写会に行ってきました。

 是枝監督の私情がはたらくせいか、たしかに「家庭劇<ホームドラマ>」との宣伝文句で想像できる甘めの感動ストーリーとはかけ離れた、悲哀や怖い面から目を逸らさない描写でした。家族劇において、家人は「お客さま」を明るく歓待するけれど、もしや「歓迎」以上の理由があるかもしれません。たとえば母・とし子(樹木希林さん)の、ある意味二面的な態度。彼女は長男・純平(良多の兄)を水難事故で喪っています。しかも、他人の命とひきかえの死。客観的事実「ひとりの死」では説明できない、つまり、切っても切れない「家族」という要素が入るだけで、ヒトの感情はかくも「理不尽」になるし、深い闇を刻んでしまう。

 アメリカンホームドラマよろしく家族は幸福の基本ですし、日常生活(と本作)の8割くらいは幸せな雰囲気に満ちています。でもね、この紐帯こそ、仏様が「煩悩」と名づけた苦しみの根源。「歩いても 歩いても」は家族の両面を冷静に撮っていて、乾いた笑いもあれば、家族ゆえの怨念もありました。かくも残酷な映画ですから、生理的に受けつけないひとがいても仕方ありません。

 さて、是枝さんに対して僕、素の時間感覚を大切に撮る監督だと感じています。「誰も知らない」の撮影は1年間に及び、子どもたちの変化をリアルタイムに記録しました。今作は主人公・横山良多(阿部寛さん)一家の里帰り一泊二日を、素っ気ないドキュメンタリーのように描きます。僕らの24時間を思い浮かべるまでもなく、そこに大した事件や物語は起こらないのが普通。だから本作も、とりわけ目の覚める出来事などありません。えー、睡眠不足の方にはおすすめしません。書く方向が間違っとるがな(笑)。

 ドキュメンタリーとなれば、カメラマンはさしずめ良多かな。でも本作、撮影者の目が届かない、秘密の感情や人物すら「ドキュメンタリー」しようとします。母や父・恭平(原田芳雄さん)には明かせない良多の悩み―失業。再婚ゆえに妻・ゆかり(夏川結衣さん)が横山家に抱く隔絶感。決して全貌など窺えない、純平を亡くした両親の想い。ゆかりの連れ子、あつし(田中祥平くん)が良多を「父さん」と呼べないこと。主人公のはずの良多、実はあまり画面に現れません。また、画角のなかで常に物語が進行しているわけでもありません。見えないところを物語る力が、この映画には具わっています。あるいは、是枝監督とお母さん、お父さんとの距離感を暗示したのかもしれません。

 本作、ゆえにドキュメンタリーよりもリアルで「小説は事実よりも奇なり」。ストーリーテラーとしての是枝監督の才能を堪能できる一本といえます。

 そういうわけで、登場人物たちの会話はリアルかつ自然で、脚本なしかと思うくらいです。実際は細かく台詞が指定されていたようですが。まさに、「誰も知らない(カメラを)」立ちまわり。会話と書きましたけど、もっかい僕らの日常をたどると、互いの言葉は重なっていたり、発話の相手が特段決まっていなかったり、誰の耳にも届かないボソボソ「会話」まであります。食卓に両親から兄弟、孫たちが揃う場面はまさにそれで、もしかしたら録音技術が「下手」なのかもしれません。でも、そこに現実はあるはずなのです。

 ここまで読まれれば容易に予想つくでしょうが、こんな会話の演出に応えた俳優陣の演技は完璧でした。なんたって、演技にみえませんから。阿部寛さんに希林さん、原田芳雄さん、当然といえばそれまでなのですが、なお一見の価値にあふれていました。希林さんは「東京タワー」につづく素の老母を大快演。良多の姉を演じたYOUさん、その夫役の高橋和也さんにも主役に劣らない出番と演出が準備され、この独自のドキュメンタリー・ドラマをもっと攪拌していました。

 最後に、この映画は(良多のように)離れた土地の両親をもつ人びとには、胸が締めつけられるような想いに駆られる一本ではないでしょうか。かく言う僕も年老いた両親から離れて東京に暮らす身。ご両親をすでに亡くした是枝監督の心情が画面に沁みでるたび、とくに終幕を覆う彼の念は、言葉にし難いものがありました。繰り返しですが本作、幸せ一辺倒の家族劇ではありません。悦びから哀しみ、残酷さまでひっくるめて、自らの家族のことを深く想わずにはいられない作品でした。作品は監督さんの所有物だけど、ごめんなさい、僕自身のなかで、大切にさせていただきますね。

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