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歩いても 歩いても (2007)

STILL WALKING

監督
是枝裕和
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4.03 / 評価:1,140件

人生とは終わりのない旅のごとし

またしてもいい映画にめぐり逢ってしまった。今年観た日本映画の中でもトップクラスに位置する傑作だと思う。
阿部寛や夏川結衣といったスターが出ている割には、妙にあっさりしたポスターに惹かれて観に行ったが、予想通りに私のツボのど真ん中を突いてくる映画だった。
最近は邦画でも秀作が増えてきて、週に一度映画鑑賞の日を設けても泣く泣く観逃してしまう作品も出てきており、正直困っている。それはともかく、本作のどの辺がツボだったのか私なりの言葉で書いてみよう。

まずは映像の美しさを挙げなければいけない。日本映画が外国映画にかなわない要素として、画面がショボいというか、映像的な驚きに欠けるという事がある。どうしても見慣れた日本の風景が映っていても「ふーん」となってしまい、インパクトを感じられないのは仕方がない。
しかし本作では、神奈川県の丘陵地帯をうまく使って画面に奥行きを与えている。丘の上から市街地や京浜急行、海まで見渡すショットは「おっ、首都圏にこんな景色のいい場所があったのか」と、軽い驚きを与えてくれる。
また、是枝監督が世界的に注目された「誰も知らない」では、石段のある坂の街が重要な役割りを果たしていたが、本作でも急坂を日傘を差して歩く夏川、石段をゆっくり昇り降りする原田芳雄や樹木希林の姿は実に決まっており、日本映画の絵柄も結構やるじゃないかと思わせる。

「誰も知らない」では、母親の育児放棄がもたらした悲劇という異常な事態が描かれていた。対照的に本作は、長男の命日に集まった家族(横山家)のなにげない二日間が舞台になっている。途中で大きな事件が起こるわけではないのだが、その描写がとても魅力的で、いつまでも彼らのやり取りに耳を傾けていたいという気持ちになるのだ。
料理を作りながら良多(阿部)らを待つ樹木希林やYOUの会話が絶品であり、そこへ割り込んでくる子供達や恭平(原田)の他愛ないやり取りが実にいい。豚の角煮やコーンの天ぷらなど、出てくる料理がまた旨そうで、どうしても私の両親の実家に帰って、離れ離れの家族が一堂に会した時に、母が腕を奮ってくれた料理を思い出してしまう。
私は連れと二人暮らしであるが、私の住んでいる地域では先週花火大会があり、私も張り切って稲荷寿司やゆで卵などの弁当をこしらえて、連れと河川敷に出かけて花火見物をした。いつもはありきたりの場所が非日常な舞台となった、その時の高揚感を思い出した。

思い出したのはこれだけではない。家族間の会話を聞きながら思い出したのは、行きつけのお好み焼き屋に連れと行った時のこと。隣のテーブルに6人ほどの家族連れが座って、めいめいに好きな物を食べながらおしゃべりをしていた。大人は大人の会話、子供は子供の会話をしながら全体は和やかに食事が進んでいく。何気ない光景であるが、これも愛する家族がいるから得られる幸せな光景なのだ。
本作を観ている間は、脚本の巧さや役者の演技に心奪われる、という事はなかった。ただ美味しい水が喉を潤すような、こった肩を絶妙なタッチで揉んでもらうような心地良さを感じていた。

物語が進むごとに姿を現してくるのが、15年前に亡くなった長男のエピソードである。劇中に長男の魂のように飛び回る蝶(モンキチョウと思われる)が出てくるが、この蝶があんな切ない言い伝えを秘めているとは知らなかった。家に飛び込んできた蝶に「長男が帰って来た」と叫ぶ樹木希林には、思わずゾクッとさせられる。まるで死者の魂が母親を呼んでいるように思えたのだ。
一見平和そのものに見える横山家にも、幾つかの小さなトゲが残っている。一つが亡くなって15年になる長男のこと、もう一つが良多の妻・ゆかり(夏川)の連れ子と良多との間に微妙な距離感がある事だ。良多の父・恭平も、長男が死んで開業医の仕事を誰も継いでくれなかった事への心の痛みを抱えている。物語では、そういった問題に明確な回答が示されることなく、結論は観る者の心に委ねられる。

楽しかったはずの家族の再会も、帰りのバスの中で良多とゆかりが呟く「正月は会わなくていいよね」という会話で、現実に引き戻される。映画で描かれた二日間というのは自分探しの旅、すなわち自分の嫌な部分と向き合う作業でもあったのだろう。
『歩いても 歩いても』というタイトルは、昨年公開された「しゃべれども しゃべれども」(平山秀幸監督)と被ってしまい、インパクトに欠けるのは否めないのだが、「人生とは終わりのない旅である」というテーマを表すものとして、変える事のできないものであったのだ。

詳細評価

物語
配役
演出
映像
音楽

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