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ペルセポリス
2007年12月22日公開

ペルセポリス

PERSEPOLIS

952007年12月22日公開

pan********

5.0

イラン少女の半生記と勘違いしてはいけない

オーソドックスでありながら斬新さいっぱい。 すてきなオープニング・クレジットから驚かされるだろう。 この作品を、マジルという名のイランの少女の半生記と勘違いしてはいけない。 ロックとお洒落が好きで、自由気ままな生活をおくっている金持ちの少女が、 都合が悪くなると留学したり引っ越したり、反抗的で自分勝手な人生の中で 時には反省もする。親はインテリではあるが、単なる親バカでしかない。 そう受けとった人にとっては、何を言っているのかわからない退屈なアニメだろう。 そうではないのだ。 マジルは、あくまでも語り部。狂言回しといっても良い。 いかにしてパーレビーが欧米の力を背景にして政権を奪取したか。 その腐敗政治の陰で、どれだけ多くの人々が辛酸をなめたのか。 そこでおこなわれた拷問が、実はCIAの伝授したものであること。 そんな体制を打ち倒すべく立ちあがった民衆は、やがてイスラム革命に吸収されていく。 台頭したイスラム政権によって、さらに多くの人の自由が奪われたこと。 イスラム革命の波及を怖れた欧米はイラクをたきつけ、イラン・イラク戦争に。 両国で何百万もの命が失われたが、映画ははっきり「無駄な死」と呼んでいる。 より良き社会をめざして倒れていった人たちがいたこと、今もいること、 そんな歴史と社会を、マジルの目を通して見せ、口を通して語らせているのだ。 私たち日本人にとって、イランもアラブ諸国も、およそ遠い存在でしかない。 学校でも習わないだろうし、そもそも興味だって、ふつうの人にはないだろう。 マルクス、バクーニン、フロイトらの著作を読む場面があるが、読んだことがない、 名前も聞いたことのない人にとっては、理解しにくいところだ。 だから、この映画を観たくなる人は、かなりの知性派か、あるいは異文化を 少しでも知ろうという気概のある人にちがいない。 もちろん、知ったところで役に立つことはほとんどないだろうし、 知らなくても何ら困らないことではある。 マジルの思考や行動、多少なりともイスラム社会を見てきた私には、ほんの少し だけわかる。しかし、ほんの少しだけなのだ。 私は男だから、女性の負っている不利益を、女性と同じだけ理解しているわけではない。 どんな音楽を聴こうと、どんな服装をしようと許される国に住んでいる私たちは、 自由の意味をイラクに住むマジルと同じようには感じていないだろう。 留学したマジルの立場は、日本国籍を有して日本に住む私たちにはピンと来ないだろう。 在日や外国人労働者に対する態度を見れば、それがよくわかる。 そして、自由を謳歌するこの社会と抑圧の世界が紙一重であること、いとも簡単に 変わってしまうこと。 イラクの可哀想な少女の物語ではなく、「あなたたちの問題」と言われているようにも 受け取れるのだ。戦争経験世代ならきっと理解してくれるだろう。 「いつも毅然と公明正大でいるんだよ」 おばあちゃんのう言葉は、ひとつひとつが真理を突いている。

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