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ペルセポリス
2007年12月22日公開

ペルセポリス

PERSEPOLIS

952007年12月22日公開

victor

5.0

ルーツを見失わず生きていく事の大切さ。

日本で「松本人志、カンヌへ」と連日報道されていた去年の春、カンヌでの上映作品リストの中にこの映画「ペルセポリス」の名前とマルジャン・サトラビの名前を見つけた時から、ずーっとずーっと私の中では観たい映画ベスト3でしたが、ようやく観る事が出来て本当によかったです。 それだけ原作の漫画の印象が記憶として心に残っているのですが、映画となってもやはり素晴らしさは漫画と同様か、もしくはそれ以上でした。 ★7つです。 ちなみに劇中に「アイ・オブ・ザ・タイガー」が使われていたので、僭越ながらロッキー作品の★で例えますと、ロッキー、ロッキー2は★5つ中の★8つ(=人生最高得点)。 私的には、それくらいに大満足の作品でした。 人間としての尊厳、女性としての尊厳…、片や男子としての哀しい性もあるでしょう、イラン人としての尊厳、家族の絆…様々な描写がありますが、彼女の半生、真実性の描き方は心に染み入るモノが多過ぎて、とてつもなく感銘を受けます。 人それぞれ捉え方はあるでしょうから、多くの鑑賞された方の意見はそれぞれだとは思いますが、私はマルジさんが伝えるモノが、ただの裕福なインテリの家庭に生まれたわがまま娘の自己主張だとは到底思えません。 彼女の思考の軸は頑強で、祖母や父、母達から教えられた「人として大切な事」を自分が出来る事、すべき事に置き換えて人間として成長し、社会で実践してみせたのです。 原作でも深く心に刻みましたが、お父さんの「自分が何者でどこから来たのか決して忘れるな」という言葉がとても重いです。 彼女は「インテリ家庭に生まれ育った事の理由」を悩み抜いて見い出し、国外での生活を通じて得た「自分が帰属すべきモノに対して背負う使命」を忠実に果たしたのだと思います。 私は平凡な日本人で決して裕福ではありませんが、普通に三度の飯を食べて、寝て、起きる事が出来ますから、その点ではマルジさんの生まれ育った環境とそんなには大きな違いはありません。 決定的に違う点は、私だってマルジさんと同様に周囲の大切な人達から幾度となく有り難い言葉を頂いて生きてきているはずなのに、自分の心の中にそれらの大切なメッセージがほとんど残っていないし、忘れないでいたとしてもほとんどが人生に活かされていない点です。 人生の指標に成り得た貴重な教えの数々を日々忘れ、ただ日々をやり過ごすように生きている…全く情けない限りです。 イランの国情の惨憺たるモノや男がつまらないくせに威張り散らしている社会が故に女子が被る被害を伝え、イランの情報を世界に向けて発信している事がこの映画の素晴らしい点である事はわかっていますが、マルジさんの人間としての成長とその成長を支え、成長を促したモノに目を向ければ、それはイランだけに存在する特殊な事情ではなく、世界中の人間すべてが持ち得るモノである事に気付きます。 それを大切に心に刻み、日々を過ごせば、人の手によって作られたような世の中の不幸であれば、根絶出来るような気が沸き起こってきます。 作風はティーンの時分に恥ずかしげもなく、「PUNK‘S NOT DEAD」のシャツに袖を通した事のある大人なら感慨深いモノがあり、自分と闘いながら社会に立ち向かい、アイデンティティを確立していく姿を悲惨な現実とハイセンスなユーモアを織り交ぜて描く今作、少しでも多くの平和な世の中に生きる方に観て欲しいものです。 今もそんなヤツ居るのかどうか知りませんが、パンク御三家やハードコア御三家、ちょっと遅れてグランジ御三家とかのシャツを着て、ツバを吐き散らしている若者が居るならば、是非見せたい映画です。

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