レビュー一覧に戻る
ヒトラーの贋札
2008年1月19日公開

ヒトラーの贋札

DIE FALSCHER/THE COUNTERFEITER

962008年1月19日公開

kyo********

4.0

あの「悪夢」から受け継ぐもの

ナチ占領下でのユダヤ人収容所における残酷物語です。同じような映画を見るたび身につまされます。ドイツ映画であるところにより現実感があります。 贋札作りのマニアックな解説を期待してはだめです。ポンド紙幣にボロ布の繊維が混入されているのを発見して偽造に成功するといった話くらいでしょう。 ガス室殺人はないが人権皆無の飼い殺し状態が描写されています。 贋札を米英にばらまき経済混乱をたくらんだ実話があったらしい。収用所で偽札作りをさせられることで「優遇」され生き延びたユダヤ人の話です。 主人公は戦後も闇社会で幅をきかせている。ふとして過去の記憶が思い起こされ、今の人生と戦中戦後をへて世界の無常と恒常を諦観する…というお話。 ナチによる「ホロコースト」は600万人のユダヤ人虐殺という空前の事実を有無もいわせず人々の脳裏に焼きこみます。 戦争がもたらした残酷は枢軸国側によるものだけではありません。連合国側による無差別爆撃さらに原爆、戦後のドイツ人収容所や終戦間際の民間人への迫害、大陸での日本人陵辱殺人や抑留など枚挙に暇ありません。それらに対しても圧倒的なイメージで「ホロコースト」は覆いかぶさってきます。 「ホロコースト」のディテールや規模に関する批判には「歴史修正主義」という悪のレッテルが貼られます。 ドイツ人にとってもこういう映画を作り続けることは重要なのでしょう。 単純に見てしまうとこれは教化もしくはプロパガンダの映画の一つかもしれません。 日本に置き換えて見ます。 ホロコーストはナチの政治犯罪であり「戦争犯罪とは区別されるべきものだ」と主張するとそこでも「歴史修正主義」と非難されるようです。 つまり日本の行為をドイツの行為と同列に扱い「ホロコースト」と重ね合わせることで「戦後体制」のくびきを解かない政治目的がそこにはあります。 歴史は今を生きる人間にとって都合よく解釈され利用されます。 歴史の事象の中で生きているという意味ではこの映画の登場人物たちもおそらくそうでしょう。 戦争犯罪者は裁かれ刑に処せられました。また戦争犯罪に加担させられた人々のうち刑を免れた人は戦後を生き延びました。 あの数年間の地獄はたんなる「悪夢」だったのか。 主人公(ユダヤ人)は今の(戦後の)自分を否定して次の人生へとスタートしようと決意したのでしょう。「悪夢」の中から受け継ぐものをみつけて。 他方ドイツ人たちどんな戦後の人生を送ったのでしょうか。 戦後を生きるとはドイツ人ドイツ社会も日本人日本社会も似たような妥協と諦観だったのかもしれません。

閲覧数1,262