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恋する彼女、西へ。 (2007)

監督
酒井信行
  • みたいムービー 30
  • みたログ 40

3.10 / 評価:10件

お爺さんの無言の涙、濃密な時間。

  • かんじゅーす さん
  • 2008年2月14日 2時10分
  • 閲覧数 552
  • 役立ち度 28
    • 総合評価
    • ★★★★★

 広島を舞台にハッピーエンドの映画を作ろう!という発想から生まれたご当地映画です。そういうわけでエンディングが予想できるのはご愛嬌として(勘がよければ開映5分で気づくぞ)、そこへもってゆく物語・脚本ともに破綻がなく、この手の映画にありがちなストレスを溜めることなく102分乗りきれました。聞けば原案・脚本は今年の大河ドラマ担当・田渕久美子さんだそうで、納得の出来であります。

 お話は、広島出張中の杉本響子(鶴田真由さん)が、タイムスリップで昭和20年8月3日からやってきた海軍少尉・矢田貝亨(池内博之さん)に偶然出会い、彼の姿や考えに触れるうちに恋しちゃった、伴侶に巡りあいましたというもの。

 要約するとベタな内容ですが、観ていて非常に面白いプロットでした。まず、現代人ではなく軍人が、過去から、タイムスリップしてくるのは珍しい例でしょう。矢田貝は24歳の設定ですが、演じるのは1976年生まれの池内博之さんでかなり高め。その理由が、あらかじめ東京の場面で、24歳なのに思考と体力が高校生レベルの部下くんを登場させることで、自然とわかるように工夫されていました。つまり、当時の青年は大人びていたらしい。大人っぽいというのは漠然とした雰囲気ではなく、確固たる意志を湛えた彼の目に彼女が惚れるというお話によって、具体的になります。

 また、ギャグや思わず「ほほう」な場面もセンス良くちりばめられていて、「広島もの」の重さを取り払おうとする努力がみえます。傑作だったのは、昭和20年との違いを矢田貝が「女性の服…下着みたいだ」(笑)。下着ですか!ふむふむ。もっかい確認ですが、この映画の脚本は女性ですぞ。見せるところはじっくり見せていますが、会話のかけあいやテンポは悪くなかったと思います。演出や映像には古さを感じるのに、田渕さんの力で相当補っている印象です。

 ひとつ難をつけると、響子視点の物語だったので仕方ないとしても、超浦島太郎状態の矢田貝が平成を受けいれる過程の描写が足りないように思います。景観の変化に驚く場面のあるほかは、食事(戦時中と一番違う点では?)や貨幣の変化に対し、矢田貝のものわかりが良すぎた感じです。また、そんな彼のとまどいが「死ぬとわかっていても昭和に戻って人々を救う」という決心に移る様子も、迫力の出せる題材のはずなのに軽く流していました。

 演技では、まず浦島太郎を演じた(?)池内さんが特筆ものでしょう。「目」はふたりにとって重要なシンボルで、彼の引き締まった目力が存分に活かされていたと思います。作中の昭和雑誌の表現を借りれば、クールでクレバーなネイビーボーイ(英語かよ!)。客観的にみれば、24歳の俳優さんが矢田貝役できなかった点こそ憂慮すべきかもしれませんが。23の僕もそこを批判できん顔なんで、この話はここまで(笑)。

 個人的な演技MVPは、終幕出てくる「ある男」(小林桂樹さん)の涙に謹呈いたします。ほんの10秒くらいのカットでしたが、この瞬間、星1つ追加決定です。一言も言葉を発していないのに、圧倒的に濃密な時間。お爺さんの演技でもらい泣きしそうとは、むしろ自分の純粋さに感動じゃ(笑)。

 本作の制作経緯は冒頭に書いたとおりですが、そもそも、本作が劇場公開まで漕ぎつけたことをお祝いすべきでしょう。一説によると、日本では年間撮影本数の3割はお蔵入りするそうです。自主制作映画は別として、本作のようなご当地ものは余所への訴求力に欠けるぶん苦労するようです。たとえば「ええじゃないか気仙沼伝説」(鈴木京香さん主演)なんて、もう題名だけで怪しさ大爆発のワクワク作なのに陽の目をみないらしく、残念至極。

 広島で明るい映画を作るべく地元有名企業が勢揃いしたおかけで、本作はちょっとした観光案内も兼ねています。夕食はお好み焼きばっかだし(オタフクソース)、広電最古参の「原爆電車」(現役の被爆車両)と最新鋭の超低床電車が登場して(このすれ違いがタイムスリップの原因という設定)、車内広告はフマキラーが貼ってあります(てか広島発祥の会社だったんか!)。野球ファン的には08年度限りで見納め、広島市民球場のカットが印象的でした。うーむ、今年こそ交流戦で行かねば。ちなみにロケーションで驚いたのは、河口にかかる橋の下…というか海でふたりが抱きあうシーン、おそらく地元情報なのでしょうが、すごいロケ地を見つけたもんです(この情熱にもはや評価不能なり)。

 公開規模も宣伝も地味、舞台も敬遠されやすい広島ですが、時間さえあれば観て損のない佳作でした。僕的には、あのお爺さんの涙で豊洲まで行った苦労がぜんぶ報われた気がします。いや、苦労してはないけど(笑)。すべてのご当地映画がより多くの人の目にふれることを願って、星4つとさせていただきます。

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