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ダークナイト (2008)

THE DARK KNIGHT

監督
クリストファー・ノーラン
  • みたいムービー 1,404
  • みたログ 1.3万

4.39 / 評価:7,027件

最後に強烈に伝わる事…これは男の美学だ。

  • zin***** さん
  • 2008年8月16日 16時24分
  • 閲覧数 3494
  • 役立ち度 226
    • 総合評価
    • ★★★★★

全米の興行成績の勢いのせい(?)か、
辛口のプロ評論家も、今回は口が甘い。
そんなイヤ味も手伝ってか、ラスト近くまで、
『そんなに傑作かな?』と観ていたのだが、
このラストに完全にやられた。

それは例えば、【さらば宇宙戦艦ヤマト】で、
“反逆者”の汚名を着てまで、テレザートへ飛び立ったヤマトの勇姿。
【グレートマジンガー】(桜田吾作 版)で、
国家から追われ、それでも闘うヒーローロボットの姿。
(コアな比喩で恐縮)
それに通じる“美しき姿”である。

ヒーロー、英雄に常に付きまとう“闇との接触”。
1度、徹底的な悪と闘った者が解かる、悪の根強さ。
比べて、善の何と不安定な事か。
敬遠されがちなこんなテーマが、【バットマン】には良く似合う。
“きれい事では悪は倒せない。 世界は守れない”
“悪には染まり易く、善は育ち難い”

今作はそんなものを正面から描き、それを一気にラストにブチ込んだ。 
それまでの閉塞感、舌足らず感は、このラストへの1本道だった事に気付く。
『これを描きたかったのか!』…気付いたら涙が出た。

故ヒース・レジャーのジョーカーに、賞賛が集まっている様だが、
喰い口は、はたしてテイム・バートン版ジョーカーも負けてはいない。
ゲーム色を強めたそのキャラは、生理的嫌悪感を軽くしてくれた。
が、今作のジョーカーはアプローチが違う。
リアルである。

《悪に染まらない者がいるものか》
それが、今作の奇行・犯行の動機。
自分を殺した時に、バットマンもそれを示した事になる。
…そう言わんばかりのジョーカーには、鬼気迫るものを感じる。
挑発的で、投げやり。
理解出来ない物事、人物。 これが不気味で恐い。

例えば、ひどく手がかかりそうな爆弾の設置。
いつの間にか増える手下。
その資金源と人脈の謎。
不気味に何も説明しない。
まるで“ゴッサムシティには、悪はいくらでもいる”…と言っている様だ。恐い。

そのゴッサムシティからして、今作はイメージがかなり違う。
これまでの、蒸気と闇が似合う、どこか幻想的な町並みではない。
高層ビル、機能的な幹線道路。
現代と何ら変わらぬ都市。そこがこんなにも腐敗している。
身近で絵空事に見えない、生々しい腐敗と狂気。
今回目指したリアルさだろう。
ヒーロー物から1歩踏み込んだこの描写は、もはや“犯罪劇”に近い。

そこには、リアルなジョーカーが良く似合う。

勿論、バットマンもリアルが似合う。
ケガも増え、気力もなえる。
彼を真似るバカ共もいれば、秘密をネタに口止め料を求める恩知らずもいる。
何より、正義の行動が、常に国家権力から追われる。
犬に追われるシーンが多いのも、意図しての事だろう。
犬にすら追われるヒーロー…それを平気で描く。

【バットマン ビギンズ】同様、いや、さらにバットマンの“負”の部分を突き詰めた。
全編のやり切れない寂しさはこの為か。

ノーラン監督は、【バットマン】が大好きなのだろう。
だから、コミックの信念を貫き通した。
《バットマンは犯罪者を殺さない》(バートンは、あえてその掟を破ったが)
が、そこには当然『何故殺さない?』と云う、ジレンマが起きる。
映画上の欲求不満と言っても良い。
時に悪者を脅し、盗聴など“必要な犯罪”さえ犯しながら何故?

ラスト近くまでそこら辺がしっくり来なかった。
が、それは、この心震えるラストへつながる必要な描写だった。

それまでの『何故?』が見事に線になった。
それは例えば、ジグソーパズルの最後の1ピースをはめた途端に、
全体像がはっきりと見える…そんな快感と感動である。

バットマンが闇に堕ちる筈がない。
彼は誰1人として悪を殺そうとしなかった。
純粋なまでに、それが“善と悪の違い”と信じる様に。 
我々やゴードンは、彼の純真さを良く知っている。
我々は、ずっとバットマンの“信念”を見届けてきた。
前段はこの為にこそあったのか。

そんなヒーローが、あえて現在以上の苦難に向かうと言う。
それが、どんなに辛い事かもよく知っている。
だから、その後姿に我々は感動するのだ。

そんなヒーローには、向かい風が良く似合う。
彼を見送るのは、善を見分る子供であれば尚さら良い。
今作は、そんな画をちゃんと創り、重厚な音楽の中、
このダークヒーローの、一世一代の哀しくも凛々しい姿を、堂々と謳い上げた。
誰にも祝福されず、しかし尚止めどもないこの想い。
これは、紛れもなく“男の美学”である。

『ジョーカーが主役と言っても良い程』?
戯言である。
ジョーカーは、この混沌とした世界観を創りだす為のカードに過ぎない。
この世界観の中で、この孤独なヒーローが、その存在意義に悩み、何を決断したか。
今作は、そんなバットマンをひたすら描いた、バットマンの映画である。

詳細評価

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