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痛いほどきみが好きなのに (2006)

THE HOTTEST STATE

監督
イーサン・ホーク
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  • みたログ 207

3.28 / 評価:54件

あるべき父の姿。理想と幻影。

  • melrose1004 さん
  • 2010年9月6日 21時59分
  • 閲覧数 921
  • 役立ち度 20
    • 総合評価
    • ★★★★★

この映画は、イーサン・ホークが自分の書いた自伝的小説を、自ら脚本化し監督を務めた作品ということで、彼自身の思いのこもったものと言えるものであり、観ていてまさにそれが伝わってくるいい映画でした。

イーサン・ホーク自身も主人公の父親役で出演しています。
美化あるいは偶像化された、幼少の頃以来会っていない父の背中。
年月を経て久しぶりに会った時のやや頼りない父の面持ち。
一方で、成長し恋に破れて傷心の息子を前に語りかける父としての言葉。

それらは、イーサン・ホーク自身が持っているのであろう「父」というものに対するイメージの投影に他なりません。
憧憬と失望、あるいは父としてのあるべき理想像といったものを、彼自身が演じようというその姿勢が、「映画」という表現手段に思いをこめる姿として、たくましく輝いて見えます。

息子である主人公ウィリアムが突然自分を訪ねてくるシーン。
扉の向こうの息子を一瞬で識別する。
「気にせず入れよ」とわざと快活に平常心を装ってみる。
一呼吸おき間をつなぐために、タバコを求める。
でも、苦笑を浮かべたその表情はついついこわばってしまう・・・。
彼の演技の一挙手一投足とその表情は、拍手喝采で絶賛したいと思います。


彼自身がこだわったという劇中の挿入歌、BGM。
オープニングと終盤の映像の基調をなす黄色の色彩。
自分の青春時代を振り返ったときの「心象」といったものが、そういった耳や目に訴えかける部分にも込められているように思えます。それらは、時を経て若かりし頃の自分を振り返ったことのある人には共通の感覚なのではないでしょうか。
なんだか、映画を製作できる人が羨ましくなります。


さて本編は、父と子の物語なんかではなく、20歳の主人公がふとしたことから一人の女性と恋に落ち、盛り上がり、すれ違い、そしてその恋に破れるまでを、ベタベタに描写していきます。
それだけ観れば、ありきたりな青春ドラマに見えるでしょう。
よく言えば、普遍的な恋愛感と言えるのかも知れませんが、要するに何の変哲もないストーリーであることは否めません。

しかし、これが自伝的ストーリーとして描かれたものと知って観たならば、若かりし頃の自身のイヤな部分を美化せず恥ずかしげもなく見せているからこそ、素直に共感し、そのせつなさを共有することができるのだと思います。

そして、単に昔を懐かしむだけの中年向けの懐古趣味な映画だというだけではありません。
失恋寸前の息子を前に、新たな恋人ができたと嬉しげな母親が登場します。
「いくつになっても、人は恋に落ちるのよ」

今この映画で観てきた恋というものは、若かりし頃のほろ苦い思い出だけなのではなく、人生の折り返しを過ぎた今からでも、また繰り返し経験していくものなのかも知れません。


映像、音楽、登場人物とそのセリフに思いを込め、自身の経験を脚本化し、監督し、自ら出演して、映画というひとつの形に表現できる素晴らしさ。

これまでにも、ロバート・レッドフォードやクリント・イーストウッドや、多くの人たちがやってきていることではありますが、国は違えど同じ世代であるイーサン・ホークだということで、感じるところも大きかったように思います。

詳細評価

物語
配役
演出
映像
音楽

イメージワード

  • ロマンチック
  • 切ない
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