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今夜、列車は走る (2004)

PROXIMA SALIDA

監督
ニコラス・トゥオッツォ
  • みたいムービー 98
  • みたログ 99

4.06 / 評価:17件

ふいにあらわれる希望

  • tag******** さん
  • 2008年5月28日 6時34分
  • 閲覧数 304
  • 役立ち度 7
    • 総合評価
    • ★★★★★

舞台は90年代のアルゼンチン。
民営化による鉄道路線の廃止によって、誇りある仕事だけでなく生きがいまでも失ってしまった5人の鉄道員とそれぞれの家族の物語。

まさにふいうちだった。
前評判でも事前に見知っていた情報でも、そして本編を観ている最中でさえも、最後の最後になるまで、自分がまさか泣くとは思いもよらなかった。
いかにもお涙頂戴といった演出やストーリーなんて、それこそ世の中にごまんとあるけれど、全然そんな映画じゃないはずなのに。

突然の失業によって彼らにはさまざまな不幸不運が訪れる。職もないお金もない、家族ともぎくしゃくしてしまうし病気の子供に薬さえ買えない、日雇い労働に甘んじるか誇りのない仕事に就くかそれとも危険な仕事に手をだすか。けれども、そんな陰鬱になりがちな有り様だって決して重苦しく描いたりはしていない。というかむしろコミカルでさえあるのだ。不幸は不幸で、もちろんまるで先の見えない不安に満ちているのだけど、なんだかとてものんびりしていて、それはラテン乗りなお国柄ゆえかもしれないしスペイン語の踊るような語感によるのかもしれない。とにもかくにも、ストーリーと言えるほどのストーリーもなくてのんびりと、それぞれの元鉄道員たちの苦労やら失敗談やらがのほほんと映しだされる。

もっともよくよく考えてみれば、現実って案外そんなものだけど。
なすすべもなく途方に暮れていたって、世界は世界で勝手にぐるぐると回り続けていくもんだし、希望がなくたって、お腹がすけばご飯も食べるし冗談も言えば笑いもする。やっすい映画でもあるまいし、現実にはいかにもなBGMなんか流れない。天気だって曇り空ばかりなわけじゃない。
そうなのだ、この物語は淡々と当たり前にすすむ。不幸だ絶望だと、演出でやたらに煽ったりはしない。だからこそ、リアルなのだとも言えるけれど。

そうこうするうちに、みな次第に追いつめられていく。
新しい仕事がうまくいかなかったり、家の立ち退きを迫られたり、子供の病気が悪化したり、事態は抜き差しならないところまですすんでいく。懐かしい誇りある鉄道員の仕事を思い出しながら、疲れきっていく。そうしてついにひとりが、スーパーへ強盗に押し入ってしまうのだ。そして、スーパーの警備員の職を得ていた別のひとりと顔をあわせ、互いに銃を向け合うことになる。
しかし、そこに至ってもまだどこか間の抜けた空気は残っている。これからどうなるんだろうとは思いこそすれ、僕の胸中はまるでさざなみ立ってなどいなかったのだ。涙など流すべくもなかったはずなのだ。

だからこそ、まさに、ふいうちだった。

そこから連なるラストシーンを目にした時、僕は気がつくと涙を流していた。びっくりした。自分でも分けがわからなかった。なんだこれは、と思った。

殊更に感動的なシーンなわけでもない。
彼らの子供がなにか行動を起こさなければと思い、廃車になった列車にしのび込む。そしてその走り出した列車を、ふたたび見ることはないだろうと思っていた光景を、鉄道員たちはそれぞれの場所でそれぞれの思いを持って眺めやる。それだけだ。彼らの追いつめられた状況が変るわけでもないし、現に強盗を起こしたひとりは、警察によって射殺されてしまう。本当にただ、それだけなのだ。状況はなにも変らない、ただ列車が走るぬけるだけなのだ。

にもかかわらず、僕は、ただそれだけで涙を抑えることができなかった。
それほど入り込んでいたとも思わないし、彼らの絶望が見に沁みていたわけでもないと思う。
あの心のふるえは一体なんだったのだろうと今でも思う。いまだに答えが見つからない。帰りの電車で思い出して、またぐっと涙があふれてくるなんて経験は初めてだった。

安易すぎるかもしれない。けれど、あの闇をついて走る列車は、希望というものを象徴していたのかもしれないと、今になって思う。
なにも変らない、けれど、遠く遠く深い闇の先に、あるいは心の中に、ちいさなちいさな灯火を見出したとき、魂は自然にふるえるのかもしれない。

やっぱり安易かな。
それでも僕は思うのだ。どんな感動的だと言われるストーリーよりも、この映画によって流される涙のほうが、ずっとずっと本物なんじゃないかと。

使い古された表現だけど、ほかに言いようがない。
騙されたと思って、観てほしい。僕だってその最後の数分間までは、完全に騙されていたのだから。

詳細評価

物語
配役
演出
映像
音楽

イメージワード

  • 泣ける
  • 切ない
  • コミカル
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