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5.0点
50年もの間初恋の女性を一途に追い求めて、心の旅を続ける男。しかし、この作品はそんなピュアな話では終わらない。 彼は心と肉体を完全に分離させている。そこがとても嘘っぽい男に見えるのだが、なぜか不思議な共感を呼ぶ。それは、男という性(さが)がそもそもそういうものだという納得感があるからだ。 男は好きな女性にふられると、それを紛らわすために他の女性の身体を求めるものだ。そこにおいて、心と身体は完全に分離している。心は好きだった女性のことが離れないのに、身体は別の空間のごとく女性の身体を求めるのである。 この作品の主人公も、結婚を誓った女性からの、「私の目が曇っていました」というひとことで、そのやるせなさを、すべて女性の身体に向け、600人もの女性と身体を重ね合うのである。体内から放出することによって、身体は一瞬快楽に充たされるが、心はけっして充たされることはない。 この作品はそれを、かなり大袈裟に描いただけのことである。 それは、男の哀しい性(さが)ではあるが、同時に男のずるさでもある。ずるさの部分で男はなんとか均衡を保っていくのである。 主人公の男はこう自分を語る。 なぜあなたは女性にもてるのです? きっと私が哀れな脱殻だからだろう 愛を求める気の毒で無害な男だから 愛とは?幸福とは? 陳腐と言われながらも、もう一度考えてみたくなる不思議な作品である。
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