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鳥の巣 北京のヘルツォーク&ド・ムーロン (2008)

BIRD'S NEST - HERZOG & DE MEURON IN CHINA

監督
クロストフ・シャオプ
ミヒャエル・シントヘルム
  • みたいムービー 18
  • みたログ 12

4.00 / 評価:1件

北京五輪<そのあと>の“鸟巢”

  • かんじゅーす さん
  • 2008年8月8日 17時40分
  • 閲覧数 256
  • 役立ち度 25
    • 総合評価
    • ★★★★★

 今夜から17日間、世界で最も有名な建築物、北京国家体育場。通称「鳥の巣」。

 「鳥の巣 北京のヘルツォーク&ド・ムーロン」は競技場ができるまでのドキュメンタリーという触れ込みですが、むしろオリンピック<のあと>(!)に想い巡らす映像作品になっていました。というわけで閉幕後も観る価値ある作品です(笑)。

 鳥の巣の設計はスイスの建築事務所、ヘルツォーク&ド・ムーロン(HdeM)。青山のプラダビルを手がけた人びとです。入ったことないけど。さて映画は、着工式前からこのジャック・ヘルツォークとピエール・ド・ムーロンに密着し、彼らをとりまく中国人芸術家からしたたかな官僚まで視野に収め、さながらロードムービーです。現代中国が一般にいわれるように、国家との協働作業はまさに騙しあい。レム・コールハース手がけるCCTV中国中央電視台ビルが100億元を費やす反面、鳥の巣は工費26億元に減額され、さらに1割カットしろ、見かけこそ大切だ、外部取りまく鉄骨はプラスチック製でよいでないか等々、さすがは中国、という珍要求が続きます。しかしスイス人もさるもので、開き直り頭のよい西洋人の威圧感を身にまとい(と自ら宣言!)、建築家のプライドを通します。

 本作で第一に面白い点は、そんな両文化の違いと対話(?)の過程が、建築家のではなく、プロジェクトに国家の威信をかける中国人のドキュメントに仕上がっていること、でした。五輪主会場は、東京がそうだったように「聖地」と呼ばれる運命。神の地を人間が造るのだから、ドラマが生まれて当然なのかも。

 第二に、ステレオタイプに陥りがちな「中国人」イメージをやんわり否定する作りになっていました。
 たとえばアイ・ウェイウェイは瑞中の橋渡し役となる人物で、HdeMをプロジェクト総顧問に招き、それでいて「オリンピックに興味はない」と言い放ちます。清華大・都市計画科教授のチー・インは、HdeMの置かれた境遇を俯瞰的に解説してくれます。

 で、冒頭の<五輪のあと>の話に戻ります。長い前置きでした。

 「グローバル化した文化は、何の意味もない」

 ふたりはこう語ります。グローバル化を象徴する無国籍建築の見本市会場と化した現代中国にあって、彼らは「国家や政治のためではない、北京の人びとのために」と言って鳥の巣を設計したそうです。具体的には、新しい公共空間の創出のこと。中国の公園を思い浮かべてもらえればいいのですが、中国人は街頭で朝から体操し、くつろぎ、ときには商売に使っています。しかも人数がすごい。そこにHdeMや彼らを追う映画監督(クリストフ・シャウプ、ミヒャエル・シントヘルム)が深い関心を寄せたことは、冒頭の映像編集から濃く示唆されます。そしてジャック・ヘルツォークは、完成した鳥の巣をこう評しました。映像はその直後、公園でフォークダンスする中高年グループと、鳥の巣のフォルムを重ねます。

 「北京にしかない新しい、パブリック・スペースだ」
 「予想外にいい出来だ。設計者が悩むのは、建物が予想外の使われかたをしたときだが、(鳥の巣では)それがないと確信できる」

 つまりHdeMは、たった17日間のオリンピック本番や建築過程ではなく、<そのあと>を重視して鳥の巣を設計したというのです。鳥の巣の特徴的な外部フォルムは(装飾ではなく)構造そのもので、鋼鉄の「人工林」の下にできた無数のオープンスペースが、近隣住民の公共空間になるよう配慮されているわけです。たとえば、(政府が最も重視する)外見重視ならばツヤ消しの赤で塗装すべき部分を、「住民が触れたあとのメンテナンスがしやすいように」ツヤありにしてみたり。もちろん内部は競技場として使われるけど、HdeMは「内部」の使われかたには言及しませんでした。
 彼らの意図する将来像が正しいことは、この構築物が着工以前から市民によって「鳥の巣」と呼ばれだしたこと(HdeMはこの呼称を発明していない!)でも充分に推測できます。鳥の巣はいのちの揺籃、親しむべき瑞祥のイメージを喚起させます。

 ところで、五輪後こそを重視した設計思想、五輪立候補都市は伏して学ぶべきでしょうね。
 長野のメインスタジアム(現在は野球場)、僕今年野球応援で行ったんですが「なんだこのデカい外野席は!」、トホホな感想でしたから(笑)。 

 チー教授は「国家の認めた枠内でしか動けないことを、HdeMは理解していない」と皮肉交じりに評します。
 しかし、彼らはむしろ「枠」に飛び込んで「公共空間」という土地固有の文化を解読し、中国の「枠」を逆に活かした建築物にしてしまった、そんな解釈も可能だと思います。「鳥の巣」の物語は普遍性を目指すモダニズム建築へのアンチテーゼであると同時に、建築家の発想力ならぬ着想力、タフさと柔軟さを味わえる、興味深い88分間(ここでも「八」並び!)でした。

詳細評価

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