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ソラニン (2010)

監督
三木孝浩
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3.52 / 評価:1863件

種田君、ちゃんと「ソラニン」届いたよ

僕にとって、原作の『ソラニン』は、『稲中卓球部』の次に大事な漫画だ。そんなわけで、今でも気が向くとたまに読み返している。今回も、映画を観る前と観た後に改めて読み返してしまったほどだ。

ぐだぐだの人生を送っていた時期がある僕には、種田や芽衣子をはじめ、人生の進路に悩んでいる漫画の登場人物たちがとても他人とは思えなかった。おそらく彼らの怠惰な生活と、昔の自分を重ね合わせていたのだと思う。

累計で60万部以上売れたという原作は、モラトリアム、青春、恋愛、友情、夢、就職といった人生のごくありふれたテーマを、絶妙の温度感で描いていた傑作だと個人的には思っている。そして、それらのテーマのどれもが、不思議と干渉しあうことなく、奇跡的に近い『ソラニン』の世界を構成していたように感じる。

そんな多くの読者に支持された『ソラニン』であれば、激しく賛否が分かれるであろうことは何となく予想がついた。そもそも生き方や考え方が人それぞれ違うように、映画の見方も違って当然だと思うのだが、僕個人の印象としては、鑑賞者の側が種田たちに対して共感やノスタルジアに似た感情を持てるかどうかが、この映画の評価の分かれ目のような気がする。

僕自身は、種田と同じように、「もう少し時間をください。何か答えが見つかるまでは」という心境でいた時期があった(長かった)人間だった。種田と同じく、ちっぽけな人生を送るのだけは嫌だが、ただだからと言って、何をやりたいのかはよくわからないという、どうしようもない人間だったように思う。今にして思えば、ただ単に大人になりたくないというモラトリアムだったのだけれども、だからこそ、今回の映画版『ソラニン』もすっと心の中に入ってきた。

加えて、僕はこの映画の舞台、多摩川をみながら育ってきた人間でもある。正直、映画の中にも、僕の良く知っている風景がこれでもかというくらい出てきた。そんなこともこの映画に感情移入できた理由かもしれない。

一方、堅実な人生を歩んできた人や、逆に種田たちみたいになりたくてもなれなかった人であれば、彼らの生き方に共感できない人は少なくないようにも感じる。実際、映画版「ソラニン」を肯定できない人の多くが言う、ただの現実逃避だという指摘はある意味では正しい。

ただ、種田や芽衣子にとって、そして僕自身にとっても、そんなダメダメな時間が無駄だったとは思わない。僕も今では、種田が忌避していた「死んだ目をして通勤電車に揺られて」いる毎日ではあるけれども、何がやりたいのかで悩んだ昔の自分がいたからこそ、今の自分があると思っている。クライマックスのライブシーンやラストシーンを見る限り、芽衣子たちもきっと同じ心境だったと思う。

ところで、今回の映画化で何よりも僕が期待していたのは、漫画の中では歌詞だけだった「ソラニン」のメロディを初めて聴けることだった。大好きな原作の中で唯一残念だったのが、“音”がなかったことだったからだ。

そして、予想どおりというか期待どおり、アジカンの奏でる音楽は「ソラニン」の世界観にぴったりの素晴らしい楽曲だった。漫画の中で種田が歌っていた「ソラニン」が、ようやく届いた気がした。

最後に、原作に出てくる芽衣子の一言を書いてこのレビューを終わりにしようと思う。僕にとっては、『ソラニン』の世界を最も的確に表現している言葉だと思うから。

「ただなんとなく大人になる。それを受け入れるか最後まで抵抗するか、それがその人の人生の大きな分かれ道なのかな。あたしはまだまだ迷ってばかりだ」
(『ソラニン』第2巻p.135)。

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