あらすじ・解説
満月の夜に故障してしまった電信柱のエレミは、自分を修理した電力会社の作業員タカハシに恋をする。彼と話がしたくなったエレミは電話回線に侵入し、人間のふりをして電話をかけてしまう。誰だかわからない相手に当初は困惑するタカハシだったが、やがてエレミとの電話を楽しむようになり、二人は仲良くなっていく。
シネマトゥデイ(外部リンク)
作品レビュー(7件)
- ham********
5.0点
満月の夜に恋をしちゃいました。 光に向かって歩き出すそれはそれは不思議な夢を見ました。 一目惚れって。 素敵だとか、かっこいいとかじゃなくて、 あっ!!って思うだけで他には何も浮かんでこない。 なのに、ドキドキする… どうして恋してしまうのでしょうね。 電柱と呼ばず【電信柱】という言葉の響きが ほんわかとしてこの恋心を見守りたくなります。 コマ送りの映像に自分がゆっくりと町並みに様々な表情をした 電信柱の1本ずつに心が奪われていきます。 エレミの目の前に現れ、優しい手で触れてくれた タカハシさんへの初恋がホロッとしてしまいました。 本屋さんに行くと電信柱の写真集があります。 それを見ていると確かに1本ずつに“顔”がありました。 普段は気にすることも、見上げることも ・・・もう、町の中には立っていないことで忘れてしまっている存在。 でも、一生懸命に私たちの生活を豊かにさせている。 そんな姿を映し出した本に癒されるそうです。 支える人と我慢強く働く電信柱の恋ものがたりに そっと自分へのご褒美となるでしょう。
- mus********
5.0点
神戸アートビレッジセンターの上映&展示会で鑑賞した。 その折に本作の中田秀人監督と、立ち話ではあったが30分程もお話させて頂いた。 一期一会の出会いに感謝である。 この作品の映画レビューを客観的に書こうなどという事は、もはや出来ない。 僕は中田監督の情熱と、映画への愛と、人間としての優しさにノックアウトされたのだ。 だから当然このレビューについては褒めちぎる事になってしまう。 その事をあらかじめお断りしておく。 電信柱が人間に恋をするというこのお話。 多分、表現の方法としてはこの「コマ撮りアニメーション」という技法が一番ピッタリ来るんじゃないかと思う。 「エレミ」という可憐な名前からも分る通り、主人公の電信柱はお年頃の女の子である。 故障してしまった彼女を修理してくれたのが、電気工事会社の「タカハシ君」と言う若者だ。エレミは自分を修理してくれたタカハシ君と一度話をしてみたいと思う。 電信柱のネットワークを利用して、彼女は人間の女性を装ってタカハシ君に電話をかける。やがて「エレミ」はタカハシ君に恋心を抱くようになってゆくのだが……。 スクリーンを観ながら、僕は映像と音楽が見事に融合したこの作品に惹き込まれた。 体の中に染み込んでゆく様なハープとギターの音色。 本作の音楽は、中田監督が必死の思いで探し当てた「tico moon」という男女二人の演奏家グループが担当している。 ワインを嗜む方ならご存知だろうが、ワインと料理の組み合わせ、その絶妙な出会いを「マリアージュ」という。 ワインと料理の「結婚」である。 1+1が3にも4にもなる。お互いの味と香りを高めあう。 「エレミ」は「tico moon」という素晴らしい音楽グループとの出会いによって、まさに極上のマリアージュを実現している。 この作品で僕が特に強く印象に残ったのは、電信柱の元で黒猫がクルマにはねられてしまうシーンだ。 はねられた黒猫は地面に横たわっている。そこに小学生の女の子が通りかかる。少女は黒猫をじっと見つめる。そして一度立ち去る。だが彼女は戻ってくる。手にはティッシュペーパーの箱を持っている。黒猫の体からは血が染み出してきている。 少女はこの黒猫にティッシュを一枚、また一枚とその体にかけてあげるのである。 真っ白なティッシュに、少しずつ染み込んでゆく、真っ赤な真っ赤な、黒猫の血の色。 なんと言う厳かで悲しみに満ちたシーンなのだろう。 小学生の女の子が思い悩んだ挙げ句、取った行動。 「白いティッシュのお葬式」 残酷さと、悲しさと、優しさと、そして美しさが、僕の心を直撃した。 この「エレミ」で僕が最も感じたのは「命」ということである。 一匹の野良猫の「命」それにお葬式をしてあげた少女の「命」 そして電信柱である「エレミ」にも「命」があり、「タカハシ君」と命の会話をする。 この45分のコマ取りアニメーションは、様々な解釈が出来る。 優れた芸術作品にはある特徴がある。 それは鑑賞する人が百人いれば、百通りのバラバラな感想を持つ事が出来るという事だ。 それでいいのである。それこそが豊かなイメージを内包した、真に優れた芸術作品の特徴なのだ。 中田監督との会話の中で印象的な言葉があった。 「僕は映画を作る時、遥か遠くに”フラッグ”を立てるんです」 どんな映画製作でもそうだと思うが、「映画を作ろう」なんて言う集団は、ある意味「狂気の集団」である。 「まったくそのとおりです」中田監督は言った。 ましてや本作は、人形を一コマ分動かしては一コマ撮影するという、気の遠くなる様な作業工程が必要な映画作品なのである。 本作は中田監督の知人である井上英樹氏が原作を書いた。中田監督はその原作「電信柱電子の恋」を読み、製作を決意する。「これは映画化に挑戦してみる価値ある作品だ」と。 当初四年ぐらいはかかるだろうという予測を立てていたとの事。そして中田監督はその四年先の”フラッグ”に向け、時間も、お金も、私生活もつぎ込む、と言うスタッフを集め「狂気の集団」を動かし始めたのである。 結果、なんと8年という歳月が費やされた。しかし、中田監督が遠くに立てた”フラッグ”はまったくぶれる事なくゴール地点に立っていたのである。 僕は中田監督のその勇気と情熱に拍手を送りたい。 最後に、いち映画バカである私の話しに、熱心に応えてくれた中田監督に感謝します。本当にありがとうございました。
- tom
4.0点
これは昭和の香り漂う、まだ携帯電話もなかったころ。 人間の男性に恋をしてしまった、1本の電信柱がおりました。 その恋の行方や如何に・・・という物語。 昭和の懐かしさって、何なのでしょう。 じぶんの生まれたころよりも昔の雰囲気。 フォーク・ソング隆盛の時代。 長髪が不良だった時代。 全共闘だとか、安保反対だとか言っていた時代。 四畳半の下宿には風呂が無くって、炊事場は共同で。 夕刻に、銭湯に通っていた時代。 その当時の恋愛って、きっとこんなんだったろうかな、という懐かしさ。 自分の父親も母親も学生で、この自分はまだ影も形もなかった時代。 そんな時代をなぜ自分が懐かしく感じるのか。 わかりませんが、ただ、自分が幼かった頃もまだ、そういった昭和の香りが。 そこかしこに残っていたからなのでしょうか。 この映画の昭和な雰囲気に浸って、心地良い気持ちで鑑賞しました。 人間と異世界の物との恋。 それがどのような結末を迎えるかは、昔々から常に、決まっていました。 最近こそ、『アバター』のような例外はありますが、あれは未来のお話。 たとえば、アンデルセンの人魚姫が、幸せになったでしょうか。 そんな予期をしながら観るものだから、楽しい場面もなんだか切なくなるのです。 途中、不要なシーンとも感じられたところ、たとえば最初の夢のシーンだとか。 無いほうがもっと簡潔で、良かったと思いましたが。 ラストには、やっぱり、泣いてしまいました。 「美しいお話」というものは、やはり、こうでなければならないよなあと。 改めて想ったのでした。 ほっこり、切なくなるお話です。
- mii********
5.0点
またひとつ、とっても素敵な作品に出会うことができました。 傷ついた私の身体を癒してくれた見知らぬあなた。 息もかかるほどの距離だったのに、一言のお礼さえ言えなかった私。 ただあなたをじっと見つめて、頬を赤くするだけ・・・。 あなたのあとを追いかけて行きたい、今すぐにでも。 でも・・・あなたの後ろ姿をただ見送るだけ・・・じっとその場に立ちすくむ。 やっぱり、あなたに恋してはいけないのね。 自分に偽って、いえ、あなたを偽ってしまうこの罪深さが私を苦しめます。 身分、立場が違いすぎるあなたに恋心を抱いた私が、私が、私が・・・つらいわ。 今日、あなたに大事なお話しを打ちあけます・・・・・。 純粋に恋心を抱いてしまったひとりの可愛い女の子が、相手に告白もできずにひとり思い悩みます。 自分の正体を話したって信じてもらえないから、まわりの仲間からあれやこれや言われてももがき苦しみます。 そんな女の子の切なさがひしひしと訴えてくるから、思わず力になってあげたいという感情に包まれます。がんばれ、がんばれって。 でも、エレミは覚悟を決め告白するのです・・・・・「 電信柱 な ん で す 」 隠れた名作とでも言うのかな、こんなにもほんわかにさせてくれる逸品でしたよ。製作年数8年を費やした45分の短編ストップモーション・アニメ作品。 登場する全てのキャラ仕立てが魅力いっぱいで生き生きしてるんだよね。だから観ているこっちも温かな気持ちに包み込まれるんですね。 DVD特典映像のメイキングを観たときになぜだか熱いものが込み上げてきちゃいましたよ。 少なくとも私の中では映画史に残る名ラブストーリーとして刻みましたよ。是非とも多くの方々に鑑賞していただきたい作品です。 映画人の気質を嫌が上でも感じられる極上品だと思います。
- shi********
5.0点
完璧な映画。なるほど、時間を掛ければいいと言うものじゃない。しかし、時間ほど正直なものもない。映像、音楽、物語、キャスティング、どれをとっても文句の付けようがない。映画が総合芸術と言うが、その見本のような映画。 この映画に比べると、商業的な目的で作られた、所謂「大作」は恥ずかしくなるに違いない。ハリウッドの映画に代表されるような、派手な仕掛けを凝らして、お金を湯水のように使って作った映画。日本で言えば、『20世紀少年』のような。 この映画には愛がある。愛することのお手本がある。愛とは時間を掛けること。小学生だった声優は、完成時には高校3年生になっていたと言う。 監督は言う。この映画はあまりメジャーになって欲しくないと。その気持ちは凄くよくわかる。自分の好きな人は自分だけのものにしていきたいもの。他の人にモテテ欲しくないのと似ている。
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