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インビクタス/負けざる者たち (2009)

INVICTUS

監督
クリント・イーストウッド
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  • みたログ 5,453

4.13 / 評価:2,441件

 『赦す』という強さ

  • CINEMA BOX さん
  • 2010年1月23日 23時59分
  • 閲覧数 3330
  • 役立ち度 307
    • 総合評価
    • ★★★★★

冒頭、一本の道を挟んだ両サイドにグランドが広がっている。
黒人たちは砂まみれになりながら裸足でサッカーに興じ、
白人たちは揃いのユニフォームを着てラグビーで汗を流す。

出所したばかりのマンデラを乗せた車が砂煙をあげながら走り過ぎていくと、
黒人たちは金網にへばりつき神を崇めるように熱狂し、
白人たちは顔に不安を浮かべながら茫然と立ち尽くす。

その冒頭のシークエンスで、なにも語らずもこの国の抱えた不安や問題が
不穏な空気として画面から重々しく伝わってくる。



27年間という途轍もなく長い年月。
白人からの迫害によって投獄されていたネルソン・マンデラ。
のちに南アフリカ初の黒人大統領になった男だ。

就任後の彼の前には経済格差、人種差別などといった一筋縄ではいかない
政治的問題が山積していた。
国旗、国歌、言葉、スポーツ。 あらゆることに溝がある白人と黒人。

なぜかマンデラは【ラグビー】によって国民をひとつにしようと画策し、
“南アフリカの恥”と呼ばれる弱小チームに重責を背負わせる。
一年後のワールドカップ優勝に向けて黒人大統領と白人主将の二人三脚が始まった。



『ミリオンダラーベイビー』『グラントリノ』ともに、
人生も終りに近づいた老人と将来ある若者とのすれ違いを乗り越えて、
形はどうあれ絆を深めていく過程をしっかりと描いてきたイーストウッド。

この映画もネルソン・マンデラというひとりの老人と、
<スプリングボクス>のキャプテンである若者ピナールとの物語を描く。
拍子抜けするほどに、それ以上でもそれ以下でもない。

ネルソン・マンデラ、アパルトヘイト、南アフリカの負の歴史。
この題材をもってしても政治を背景としたスリルとサスペンスを描こうとはしない。
マンデラのノーベル平和賞を受賞する功績を見せるわけでもなく、
絶対的な英雄として描くでもなく、完全なるカリスマとしても描かない。
それどころか牢獄生活での苦悩、ラグビーチームの猛練習風景、
ストーリーを盛り上げる要素はたくさんあるのに、それを見せることすらしないのだ。

3D画面の派手な演出で5分おきにクライマックスが訪れる類の映画を鼻にもかけず、
極めて静かに確実に積み上げられていく映画。


前政権に仕えた白人による大統領付き護衛と新政権の黒人護衛。
きわめて保守的な白人家庭と、そこで家政婦として働く黒人女性。
白人で構成されたナショナルチームに、ただ一人いる黒人プレイヤー。
スラム街に住む黒人の少年たちにラグビーを教えにいく白人プレイヤーたち。

まるで見ている私の心に刻んでいくかのように、ただただ黒人と白人の関係を淡々と描いていく。
あえて劇的なこともなく映画はすすんでいくのに、私の心にはズッシリとした重いものが圧し掛かってくる。
これがイーストウッド映画の真骨頂。

車窓から見える黒人スラム街。見学に訪れた牢獄の狭さ。黒人家政婦の目。
そこに台詞なんかいらない。 映像で語られるからこそ響くのだ。

そして浮かび上がってくる疑問。
かつて自分を逮捕した張本人である白人に対して敵対視することはおろか、
むしろ友好的に接することこそが最善の道だと信じて疑わないマンデラは
なぜ彼らを赦すことができたのか。

私にもラグビーチームのキャプテンにもその答えがわかったとき、
いよいよワールドカップが始まる。


が、しかし試合が始まってもそのスタンスが変わることはない。
ラグビーというゲームそのもののショー的要素は徹底的に削ぎ落とされ、
感動の押し売りはしませんよとばかりに劇的に描いてはくれない。

競技場外でラジオを聞きながら警備する白人と実況を聞きたい黒人少年。
フィールドと観客席。 競技場内で応援する観客とテレビ観戦する街の人たち。

むしろ試合の興奮よりも、その試合を取り巻く人々の想いや願いや期待や不安を
じっくりと感じ取ってみてくれと云わんばかりで決して押しつけてはこない。

これを物足りないと見るか、これぞイーストウッドと見るか。
これを楽しめるか、楽しめないか。 感動できるかできないか。
それは観客である私たちに委ねられている。



かつて、許すことのできない悪をとことんまで追いつめて制裁を加えた男が、
我が身を犠牲にして悪を正したことに涙した昨年の『グラントリノ』

そして、その男は、いよいよと寛大に悪を赦す。
まるで今までのことはノーサイドだよと云わんばかりに。

久しぶりに心の芯から温かくなるような映画だった。






【追記】
実話に基づいて制作された映画です。
飛行機のことも、日本のことも、オールブラックスの戦いの踊りもすべて事実だそうです。
たった数分のエンドロール。 席を立たずに感動しようじゃありませんか。

詳細評価

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イメージワード

  • 勇敢
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