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狙った恋の落とし方。
2010年6月12日公開

狙った恋の落とし方。

非誠勿擾

1252010年6月12日公開

真木森

3.0

中国発トレンディードラマ 冷やかしお断り

 ちょうど昨日北海道限定で先行上映が始まり、「中国で『レッドクリフ』を抜く大ヒット。北海道への旅行者が増大」と長い間噂を聞かされてきた身として張り切って朝一の上映を見てきました。館内にはそこそこ人が集まっていてお年寄りの方が夫婦で来ている例が多かったかな(おそらく私と同じ動機で鑑賞したのでしょうね)。という訳で、私は中国の現地で見た方や業界人以外の一般客としては一等最初に本作を鑑賞した日本人となり、本作の評価を定める嚆矢の権限を得るという責任も負ったのですが、しかし残念なことに作品の評価は「中くらい」としなければならないでしょう。肝心要のストーリーが軽薄で「内容が無い」と断じられても仕方ないですね。前半は秦奮(チン・フェン)の結婚相手探しと笑笑(シャオシャオ)との奇妙な縁の始まり。北海道に来てからは宇崎逸聡氏とともに3人の道東ロードムーヴィーになります。そんな中で主演二人の恋愛における心の傷も吐露されるのですが終始軽い。1980年代後半、日本のTV界ではトレンディードラマという軽い恋愛模様を題材にした物語が量産されましたが、生活感が無く「恋愛とはゲームである」「お金は後から着いてくる」という感じはまさにバブル期の象徴。漫画『ハート・カクテル』的なあれです。私は大嫌いだったのですが、本作の空気感はまさにそれで20年越しの亡霊が突然現れた感じです。ところどころ気の効いた台詞があったりするのですが、ただそれだけで深みも哲学もない。ふわふわとしてただ流れていくだけ。だから物語の終盤、○○が××するという展開があるのですが、すぐに近くを通っていた漁船に□□…という顛末でドラマティックでも何でもない。最後は豪華客船のクルーズに出ていて携帯電話を海に投げ捨ててお終い、ってな感じで「はいはい、勝手にしてください」でした。  でもですね、やっぱり舞台となった光景は絶品なんですよ。私は昨年までオホーツクにほど近い町に住んでいたので「おおー、能取岬だ!」「あれっ、この海岸線脇を一輌編成で走る電車ってもしかして…、あっ、北浜駅に駐まった!」と非常に楽しめましたし、実際に行った訳ではないですがヒマワリ畑も岩尾別温泉も一発でそれだと分かりましたよ。あの起伏の多い一本道は女満別から美幌につながる辺りで撮影したそうですが、そこに限らず網走、斜里、小清水、清里の辺りは素晴らしい景色がずっと広がっているのでドライブで来てみてくださいね。阿寒湖も何度も通りがかっている場所ですが、「そうか、陽光の加減でこんなに美しく映えるんだ」と再発見しました。それに中国人が北海道の光景にうっとりしたのと同じように、私も明朝歴代皇帝の陵墓公園(ゾウの像が建ち並ぶあそこです)や杭州の西湖の風光明媚さには感嘆しました。映画というのはまだ見ぬ世界の追体験の場である、という根源も思い出しました。  そんなこんなでやっぱり評価は「中くらい」ということになりますね。全編コメディタッチで進んでいますが、コテコテして洗練されていないこの感じは『男はつらいよ』も思い起こします(国泰寺にいって無理に参拝しようとしたらヤクザの大物の葬式中だった、なんて「寅さん」にあったとしてもおかしくないシーンじゃないですか)。両作品はともに国民的正月公開作で、優れたロードムーヴィーであるという点でも共通していますが、実際中国の若手監督は山田洋次の作品が映画の教科書代わりになっているとか。北海道への思いというのもそこに共通しているのでしょう。それにバブル期の我々がトレンディードラマ風の物語を必要としていたのと同じく、未曾有の経済発展を遂げている最中の中国の人達にとってこういう物語が求められていたということもよく分かるのです。愛情がないんじゃないかというくらいに身も蓋もない男女の婚活の様子は、儒教的な「男尊女卑」の縛りが溶け始めたと言うこと。ヒビアン・スーがちょい役で登場し台湾問題を臭わすやりとりがありますが、これだってかつてなら映画で何気なく登場させようのない問題だった訳ですから、やっぱり中国の人達の感覚が外向き開放的になっているという表れですね。道東には昨年だけでも従来の数倍もの観光客が訪れたそうです。もしかしたら軽やかな恋愛物語が日本と中国を股にかけて現実化することが多くなるかもしれません。「非誠勿擾」=冷やかしお断り(真剣に交際できる人を求めています)我々日本人も中国の人達を単に観光客、金を落としてくれる対象と見ずに、きちんと向き合って付き合っていくべきですね。そんなことも思わせてくれる映画でした。公開の意義は大きいです。ただしこれから見る方は余り深いものを期待しないように。中国発トレンディードラマ、後世に残るような傑作ではないですが、中国の人達の現在の気分を切り取った軽やかな娯楽作品です。

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