肥大していく憎悪の連鎖
- 仙台っ子 さん
- 2011年12月27日 23時05分
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- 役立ち度 5
- 総合評価
4時間38分を最後まで飽きさせない作りにしたのは凄いと思う。
生と死、罪と罰にまつわる全9章の長編。
日本の四季を織り交ぜながら、幾多の登場人物を絡ませていく。
本作はこの世に生き残ってしまった人々を映し出す。
彼らにとって「生きる」とは、怒りであり、憎しみであり、苦しみであり、悲しみである。
被害者と加害者間で、憎悪は肥大していき、暴力や復讐が連鎖していく。
その連鎖は「死」でさえも止めることはできない。
血の繋がりによって引き継がれた憎悪は、下の世代にも多大な影響を及ぼしていく。
無垢だったはずの子供たちが、トラウマや心の傷を抱えながら成長している姿。
その時間の流れを表すために、これほどの尺が必要だったのだろう。
終盤には新たな命の誕生を描いている。
この純真無垢な存在は、人間の闇に包まれた本作を明るく照らし出す。
この子だけは“自分たちのようにはなってほしくない”と誰もが祈っている。
けれども、命にまつわる重いテーマを扱っていながらも、不思議と心に響くものはない。
それは、罪と罰に関する事象が提示されるだけで、それを深く掘り下げることを作り手が拒否しているからだと思う。
瀬々作品にいつも感じることだが、基本的に物語を紡ぐという作業を終始忘れている。
生と死というテーマにまつわるエピソードを並べているだけに過ぎない。
演出も瀬々テイストの悪い面が出ている。
登場人物の感情が激しく揺れる度に、手持ちカメラも揺れに揺れる。
良かれと思ってやっているのだろうが、画面が見にくい上に、そんな演出をしなくても観客には演技で十分心情が伝わっている。
エンドクレジットで流れる彼が作詞した曲も、本作のテーマを全て歌詞で説明してしまい芸がない。
彼の作品を観るといつも思うことだが、もう少し観客を信頼して演出すべきだと思ってしまう。
詳細評価
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