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大いなる幻影 (1937)

LA GRANDE ILLUSION

監督
ジャン・ルノワール
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4.29 / 評価:81件

第一次世界大戦、他民族との邂逅

今回取り上げるのは1937年のフランス映画『大いなる幻影』。「グランド・イリュージョン」という原題でも有名である。ジャン・ギャバン主演作の作品レビューを書き込むのは「地下室のメロディー」に続いて2作目だ。日本では反戦のメッセージが非常時にそぐわないとして上映禁止となり、戦後の1949年にようやく公開された。この年のキネマ旬報ベストテンで外国映画の2位に選ばれている。監督のジャン・ルノワールは印象派の画家ルノワールの実の子供で、それを知った時はかなり驚いた。
今から82年前の映画だが、僕の観たバージョンは画面が新品のように鮮明で、音楽もクリアに聴こえてくるので嬉しかった。良質のオリジナルフィルムが残されていたか、今はやりのデジタル修正が行われたのだろう。反戦がテーマだが重苦しいばかりの映画ではなく、フランスらしいユーモアと音楽がいっぱいの、娯楽的にも楽しめる映画であった。

同じ第一次世界大戦を題材にした反戦映画「西部戦線異状なし」は、日本ではリアルタイムの1930年に上映されているから、10年も経たないうちに国内情勢は急激にキナ臭くなったのだ。本作が作られたわずか2年後に第二次世界大戦が勃発している。どんなに反戦メッセージの優れた映画が作られても、現実の戦争を止める力はないという事か?
題名にある「幻影」とは何を指すのだろう?劇中では幻想的な場面や、登場人物が幻影を見る場面はない。主人公のマレシャル(ギャバン)と一緒に捕虜収容所を脱走するローゼンタール(マルセル・ダリオ)がラストで言う、「俺たちが脱走に成功しても、どうせまた軍隊に編入されて戦争に駆り出されるのだ。“戦争を終わらせる”(マレシャルのセリフ)なんて幻想だよ」というセリフがそれに当たるだろう。

主な登場人物は5人いる。まずマレシャル中尉はリヨンの工場で働いていたと語り、ギャバンの厳つい容貌から分かるように労働者階級である。マレシャルと同じ飛行機に同乗してドイツ軍の捕虜となるボアルデュー大尉(ピエール・フレネー)は貴族の階級で、おしゃれな口ひげをして常に白い手袋を付けているキザな男である。
二人は同胞として一緒に行動しているが、階級の差からくる距離感もある。ただしマレシャルがボアルデューに対して卑屈になる事は全くない。ボアルデューがマレシャルの脱走計画に協力して、わが身を犠牲にするシーンは感動的だ。
マレシャルと一緒に脱走するのが裕福なユダヤ人であるローゼンタールで、コミュニケーション能力に長けた男である。収容所には豪華な食料の差し入れが届き、それを同室の仲間に分け与えては感謝されている。収容所の慰問会のために女性の着物を届けさせ(そのまま本人に引き渡すドイツ軍も凄い)、女装した男たちが歌い踊るシーンは前半の見せ場の一つだ。

次に忘れていけないのはドイツ軍の飛行機乗りで、後にマレシャル達が入る収容所の所長を務めるラウフェンシュタイン大尉(エリック・フォン・シュトロハイム)。小柄でガッチリ体型のスキンヘッド、隙のない軍服の着こなしで、本作で最もインパクトのある人物だ。シュトロハイムは無声映画時代の映画監督で、後に「サンセット大通り」でも好演している。
ラウフェンシュタインも貴族階級で騎士道精神を持ち、同じ貴族の出であるボアルデューに敵国とは思えぬ親密さを示す。マレシャルたちを逃がすためにわざと陽動作戦に出たボアルデューをやむなく撃って「足を撃つつもりだった」と詫び、死にゆくボアルデューが「仕方ないよ。自分の立場でも同じ事をしていたよ」と応じるシーンは本作を代表する名場面である。

最後に脱走したマレシャルとローゼンタールが出会うドイツ人の主婦エルザ(ディタ・パルロ)。彼女が登場するラストのエピソードも非常に感動的だ。夫も兄弟たちもみな戦死し、幼い娘と二人で懸命に生きてきたが、敵国の脱走者二人をかくまう事で、思わぬ安らぎを得るという展開は皮肉が効いていて面白い。その前のエピソードでマレシャル達を逃がしたボアルデューが死んでいるから、脱走者二人の運命もバッドエンドだろうと思っていると、まんまと生き延びてスイス国境を越えていくラストは意外だった。

映画はマレシャルたちがドイツ軍に捕まる前のプロローグに次いで、第一の収容所のエピソード、古城のような第二の収容所のエピソード、そしてエルザの世話になる最終エピソードの3部構成になっている。初めて観た時は映画の主題がなかなか掴めずに戸惑ったが、観終わってみると何か広々とした風景が眼前に広がっているような爽快感を覚えた。
考えてみると本作のメインキャストは、戦争がなければお互い顔も知らず、出会う事もなかった人々である。悲惨な戦争は時として人間同士のかけがえのない邂逅をもたらしてくれる事もある。反戦だけでなく、そんな皮肉なメッセージも感じさせる名作であった。

詳細評価

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