ここから本文です

死にゆく妻との旅路 (2010)

監督
塙幸成
  • みたいムービー 245
  • みたログ 334

3.59 / 評価:155件

おっさんの叫びが、いつまでも心に残る。

この作品は後から効いてくる。
鑑賞中は涙は出なかったが、エンドクレジットでは涙が溢れてくるのである。
音楽とトンネル内を走行する映像のみで、写真など何かあるクレジットではない。
それでもとめどなく涙が溢れてくる。

妻への憐れみと悲しみの涙なのか。
この「おっさん」こと清水に対する怒りの涙なのか。
「おっさん」への共感にも似た同情の涙なのか。
いまだに判然としない。
ただただ、涙が溢れてくるのである。

悲しみを爆発させるおっさんの叫びが、いつまでも心に残る。
何が優しさだったのだろうか。
何が愛情だったのだろうか。

妻は死に、そして夫は罪人として逮捕される果てを迎えるこの旅路。
道中、彼らの運命を変える素敵な出会いもない。
ドラマチックなトラブルもない。
ただただ、悲壮感と絶望感だけが大きくなっていく。

莫大な借金を負う羽目になった男の不幸。
癌という病に冒された女の不幸。
どうにかなったかもれない。
選択肢は他にもあった。
でもどうにもならない、いや、どうにもしなかったとも言える。
くだらない体裁など気にせず、自己破産をして逃げずに治療を受けさせていれば、妻はもう少し安らかな死を迎えたかもしれない。

それとも、妻にはこれが最も望む死に方だったのだろうか。
現におっさんは一度彼女を病院に担ぎ込むが、彼女は激しく拒絶する。
孤独な治療よりも、おっさんと一緒にいることを選んだ。
これは正しかったのか。

職を探しても見つからない。
おっさんが悪いのか、世の中が悪いのか。
結局何もできなかった、いや、最期まで一緒にいてやれたということか。

いくつもの疑問が頭をよぎるが、この答えは永遠に出ないだろう。
ただ言えることは、彼は正しくないと法律は言っているということだけだ。

日に日に病状が悪化し、苦悶の声を上げる妻の姿に、おっさんの心も揺らぐ。
人の多いところに置き去りにしようとしたこともあった。
おっさんはワゴン車からヒモを通し、何かあった時に外にいる自分を呼べる仕掛けを作った。
彼の優しさと気遣いだろうと思ったが、それは違うのだろう。
苦悶の声を上げる妻のそばには、とてもいられなかったのだろう。
彼はここでも逃げているのだ。
妻もそんな彼の気持ちを察したのだろうか。
「おっさんと結婚したからこんなんなったんや。もうどっか行ってしまえ。」
と激しくなじる。
だが、これは彼女なりの優しさだったのではなかったか。

それでも2人は離れない。
やがて彼女は大好きなアイスの一口さえも受け付けなくなるほど衰弱し、死んでゆく。
逮捕後20日で釈放。(原作は未読なので、どういう処分なのか不明)
警察署の駐車場にあるワゴン車。
妻と共に過ごし、そして彼女を看取った青いワゴン車で、彼の心を突き上げる悲しみ。
それは悲しみだけだろうか。
何もしてくれなかった世の中への怒り。
何もできなかった自分への怒り。
妻への憐れみ。
そして愛情。
あらゆる感情が渦巻いた叫びを上げる。

今、清水氏はどうしているだろうか。
同情する部分もある。
共感する部分もある。
だが厳しいことを申し上げるが、彼には今後幸せになってほしくない。
二度と笑顔を見せない生活を送ってほしい。
法的な贖罪は済んでも、彼は贖いようのない罪を背負ったのではないか。
世の中が悪い部分もある。
だが、彼の甘さと愚かな選択が、1人の人間を無用な苦痛にさらしたことは事実なのだから。



さて、本作内容とは無関係だが最後に。
私が本作を鑑賞したのは3月7日(月)のことだ。
金曜深夜にこのレビューを投稿しようとしていたが大震災発生。
とても投稿する気になれず、本日まで自粛していた。
明日14日から輪番停電になるので、明日鑑賞予定の作品を本日のうちに鑑賞。
これを機に投稿も再開する。
今後も鑑賞予定が狂うかもしれないが、致し方あるまい。

この大災害を前にして思う。
地震列島日本に住むということは、こういうことなのだと。
近い将来、東海、東南海、南海、そして私が住むこの東京も、必ず震災に襲われるのだ。
それでも人々は生きていく。
そこで生きるしかないのだ。
だからこそ今回の原子力発電所のお粗末さには強い憤りを感じる。
「安全神話が崩れた」と報道したところがあったが、まさに「神話」だったわけだ。

このような時に映画を鑑賞し、レビューを投稿する私のような愚か者が、哀悼の意を表しても無意味で空虚だろう。
だが生き残った方々、震災に遭遇せずも大切な人を失った方々のことを思う。
元の生活を取り戻すことは、もはや不可能かもしれない。
それでも、これからも生きて、生きて、いつか笑顔が戻る日が来ることを祈っている。

詳細評価

物語
配役
演出
映像
音楽

イメージワード

  • 未登録
このレビューは役に立ちましたか?
利用規約に違反している投稿を見つけたら、次のボタンから報告できます。 違反報告
本文はここま>
でです このページの先頭へ