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名探偵コナン 沈黙の15分(クォーター)
2011年4月16日公開

名探偵コナン 沈黙の15分(クォーター)

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5.0

ネタバレ同業者を意識した挑戦的なシーンに注目

総監督・山本泰一郎、監督:静野孔文、脚本:古内一成、原作:青山剛昌、撮影:西山仁、編集:岡田輝満、音楽:大野克夫、2011年、109分、東宝。 東日本大震災の起きた2011年3月11日のひと月後の4月16日に、公開されている。 本作品は、「<コナン劇場版>固有のファン」からは、あまり評価されていないようだ。その批判の多くは、ストーリーに対するものだ。アニメ映画とはいえ、映画の一ジャンルであり、映画の一本として観る限り、それほど難癖をつけるような内容でもない。映画とは映像なり、というのが映画の基本であり、でなければ、例えば、別に好きではないが、クエンティン・タランティーノの作品などすべて、映画とは言えなくなってしまうだろう。 監督の静野孔文について詳細を知らないが、それまでのシリーズの監督であった山本泰一郎の後を引き継ぎ、総監督の山本と協力しつつ、初めて実質上の責任者となったのが、本作品である。劇場版『名探偵コナン』シリーズという人気アニメを引き継ぐからには、それなりのプレッシャーと覚悟はあったはずだ。アニメ出身の監督として、一発目から不評を買うわけにもいかなかっただろう。その覚悟は、アニメーションそのものにおける勝負であったはずだ。 本作品は、まさにそのアニメーションの仕上がりにおいて、シリーズのなかでベストに入る。といって、ストーリーが物足りないというわけではない。突っ込みどころがないわけでもない。だが、細かい辻褄合わせや伏線の回収など、丁寧にできており、推敲に推敲を重ねたうえで成就した作品であることがわかる。音楽や演劇でも同じだが、エンタメ性とはつまり、各要素のメリハリであり、それによる牽引力である。これらに関し、そこにさらにスピード感も加わり、本作品は、他のシリーズ作品と比べても、何ら引けを取らない仕上がりになっている。アクションの多い本作では、これら質の高さに見合う編集がなされている。 この作品のアニメで注目したいのは、いろいろなトライアルを見せまくっているところだ。一般の視聴者は、見て楽しむだけでいいが、明らかに、同業者を意識していると思われる挑戦的なシーンが多い。 描き方という点では、銀世界が舞台であるので、雪道やゲレンデのシーンが多いが、静かに雪が降るようすは、実際の雪のかたちや雪の落ちる特徴を、よく掴んで描かれている。朝日に光るダイヤモンドダストも実にきれいだ。 記憶を失っていた少年・立原冬馬が、8年ぶりに起き上がり、窓を開けてコナンたちの遊ぶようすを見るシーン。小中学生が他シリーズでも多く出るなかで、それらと違った風貌にし、さらに記憶喪失から立ち直ったというキャラを作らなければならない。この冬馬の目の形、視線、髪型、指の動きは注目されてよいだろう。 風景や景色については、初めて、北ノ沢村の広大な山々が映るシーン、ダム方面への俯瞰、終盤、ダムのまわりを舐めて映すシーン、ダムの上でコナンたちに対し、遠野みずきが真実を明かすくだりの3DCGなど、奥行きある立体的な映像を楽しむことができる。 動画としては、冒頭、子供たちを乗せた阿笠博士のビートルが映るシーンに注目したい。ここは、本作品のレギュラーメンバーが、映画開始後、初めて映るシーンでもある。左に動くビートルが画面左に出ると、すぐ右側に寄せ、脇を他の車が追い抜いていく。憎らしい演出だ。本作品では、車がよく出てくるが、その走行シーン、右左折シーン、停車シーンなど、実にスムーズな絵となっている。 本作品はシリーズ第15作目であるが、シリーズのそれまでの作品と比べ、豪華な舞台や上流社会の人々、高尚な趣味などは出て来ず、犯人は、借金苦に追われたチンケな強盗であった。そのあまりに自分勝手な動機による犯罪と、それまでの名探偵コナンという作品の次元に隔たりがあり、事件解決も、コナンの鋭い想像力に依拠しており、冬馬が見た人物が違っていたくらいである。これらの点に、劇場版『名探偵コナン』シリーズや、その中心となる探偵コナンのもつキャラとの間の違和感を感じる人も多い。 新潟県が舞台になるだけに、警視庁のメンバーの登場も最初だけで、地下鉄東都線爆破事件までである。この一件はタイトル前に描かれているので、タイトルの出るのは9分27秒経過後で、それ以降、彼らの出番はない。 スノーモービルを横転させ、コナンと哀が助けに来たところで、元太と光彦が口論となり、コナンが止めに入り、教訓めいたことを話す。これは、ラストで、雪に埋もれたコナンを探すときに元太たちに想起されるエピソードとなっている。 こうしたそれぞれの要素が、それまでのコナンシリーズを観てきた人からすると、物足りなさや違和感を感じるのであろう。 ただ、それを上回るほどの圧倒的な映像であることは否定しがたく、映画としてのエンタメ性は、充分確保されていると言える。

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