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奇跡 (2011)

監督
是枝裕和
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3.60 / 評価:798件

成長の物語

  • rzh***** さん
  • 2017年12月29日 9時42分
  • 閲覧数 1833
  • 役立ち度 2
    • 総合評価
    • ★★★★★

航一が「奇跡」の場面で、それまで温めてきた願いを口にしなかったこと、そして弟・龍之介に対して「家族よりも世界を選んだ」の言葉。
航一が、一つ大人になったと捉えられます。

多くの人は、その成長を思い清々しいエンディングを迎えたと思いますが、私は少し、というかだいぶ切なさを感じました。
新しい「世界」に対する愛着、一家団らんの諦め、無邪気や愚直からの卒業。それを考えると、とても切ない気持ちになります。


一家がまた共に暮らせなくとも、弟や父とは連絡をとり続け、しばしば再会することもあると予想できること。兄、弟ともに新しい「世界」に楽しみと幸せを見いだしたこと。

このように前向きに思える要素は多々あるのですが、航一が半年に渡って願い続けてきた4人の生活を諦めてしまうことは、本当に苦しく感じました。


この感想は、航一が大人になる段階を全面的に肯定し、航一の成長を清々しく捉えることのできない、私自身の未熟さにあると気づきました。




2回目を観てみました。航一の気持ちの動きを中心に、熟考しながら観ました。

かるかんの味が「ぼんやり」から、「ほんのり」に感じられるようになったこと。鹿児島で出会った人達の、航一自身に対する愛情に徐々に気づき始めること。「奇跡」の前夜、さらに別れのプラットホームで、龍之介に「父ちゃんのこと頼むで」の言葉。鬱陶しかった火山灰を、生活の一部として受け入れたこと。

「奇跡」の場面では、航一が、家族が再び集まるという自分勝手な願いよりも、鹿児島で出会う人々・鹿児島の生活を選んだことが端的に表現されていますが、実際はその以前から無意識に鹿児島への愛着を募らせ続けていることが描写されていました。鹿児島に住み始めた時からすでに、いずれ鹿児島の生活を選ぶことは決まっていたのでしょう。


新たに気づいたことは、龍之介の存在の大きさです。夫婦喧嘩ばかりだった大阪での生活がとても嫌いなこと。福岡での2人暮らしが大阪よりも楽しく過ごせる努力ができること。これらの理由から、福岡の生活の継続と父親のバンドの成功を、「ただ単純」に願っているという点で、兄とは異なっています。

もし龍之介までが4人家族の生活を切に望んだ場合、兄弟は作中ののようにすれ違うことなく協力して、きっとそれが実現されるでしょう。(父母の問題でもあるので兄弟の力だけで実現は難しいとしても、兄弟が力を合わせてまた4人暮らしを目指すことは確かです。)結果、身悶える辛さを乗り越えて新しい「世界」を前向きに生きていく決心をするという航一の成長は無かったはずです。この仮定の時、龍之介が「単純に・素直に」福岡の生活を願ったことは重要なことになります。

しかし、この龍之介の思いは、以後龍之介自身を苦しめることになると予想しました。物心ついた後、一連の「奇跡」を思い出したときに、兄が家族を取り戻そうと必死だったことと、自分が深い考え無しに消極的だったため福岡と鹿児島で別れて暮らすことが確定したということに気づき、苦しむでしょう。「自分が兄に協力して、夫婦喧嘩が起こっても我慢する決意を固めれば、一家団欒は実現できた」龍之介はいずれそう考えると思いました。

兄が辛さを乗り越え成長したあとには、弟が苦しみを経て成長する番になる。そんな展開を想像しました。(続編は無いでしょうが…)




何気ない日常をこんなにも感動的に、意味深く表現した監督、キャスト、この作品に脱帽です。

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