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イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ
2011年7月16日公開

イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ

EXIT THROUGH THE GIFT SHOP

902011年7月16日公開

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5.0

グラフィティ技法とパンク思想の現代美術家

80年代初頭アメリカでのキース・へリングのブレイクによりグラフィティアートはストリートからギャリーへ進出し、現代美術として認識される事となる、続いてへリングとも交流のあったジャン・ミッシェル・バスキアが、そのオートマティズムペインティング技法と自由奔放なイマジネーションを駆使したドローイングで時代の寵児となり、グラフィティアートは一気にアート界に新風を吹き込む事となる、しかしその後はへリングやバスキアを越える才能はなかなか現れず、グラフィティアートの要素を取り込んだ技法を使うケニー・シャーフら若い画家達が現れ始め、ストリートペイントの乱立とそれによる規制にも拍車がかかる事となり、アメリカの美術界でのグラフィティアートブームは翳りを見せ始める、 90年代に入る頃、イギリスのブリストル出身の現代美術作家ダミアン・ハーストがそのスキャンダラスで反体制主義的な作品で現代美術界に一大センセーションを巻き起こす、彼の作品は巨大なアクリルケースに入ったホルマリン漬けにされた動物、や薬瓶などを配置した「死とドラッグ」を喚起させる、イギリスの文化としてのパンクを現代美術に引用した、まさにイギリスから来た美術界の次世代のパンクロックスターであった、彼の作品は瞬く間に世界的に評価され、その価値も影響力も現代美術界を代表する作家に上り詰める事となる、 それから暫くして、やはりブリストル出身のアーティストの作品が注目を集め始める、それは技法的にはグラフィティアートに近いが思想的にはハースト作品に通じるイギリスのパンクの影響が強く、そこにアイロニカルな要素を取り込んだメッセージ性の強い作品であった、身分を一切明さないそのアーティストは「バンクシー」と名乗り、ステンシル技法でシンプルでメッセージ色の強い図案をストリートに残し忽然と姿を消す、また時には自らの作品を額に入れ、権威ある美術館の壁に勝手に展示する、といったゲリラ的な行為を繰り返すうちに美術界の救世主的に、まさに偶像化され始める、 彼はグラフィティアートの影響を受けている、と同時にダミアン・ハーストの系譜にも属するパンクの作家でもある、美術界で作品が認められスターの様に振る舞う美術作家達を「匿名性」を守る事で否定し、スター作家達の作品が高騰し投機目的で売買される事を「通りやその壁に描く」事で否定し(中には家の壁の主が壁ごと破壊してバンクシーの絵画部分だけを取り外す、という乱暴な事をする者もいたが、作家本人はそれも笑って愉しんでいるのだろう)、美術館へのゲリラ行為で美術界の権威主義を否定し、名だたる世界的企業の広告のオファーを断り続ける事で企業優位社会や強大な力を持つ広告業界をも否定している、この映画のタイトルにしても「イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ」美術館は作家の作品よりもグッズ販売に重きを置いてるんじゃないかい? 我々観衆にも、美術館に来てギフトショップ(ミュージアムショップ)なんかで買い物してんじゃねえよ! 君達は買い物に来たのかい? 作品を観に来たのかい? と言うメッセージでもある、バンクシー先生徹底してる、流石です、 80年代後半にカウンターカルチャーとしてイギリスから世界に発信したパンクムーブメントの若者達のアティチュード「権威に対してN O!と叫ぶ」反逆精神を現代美術の脈絡の中で再構築し、そこに誰にでも理解できる簡潔なデザイン性とユーモアを交えアイロニカルに表現する事で、現代美術界に於いて圧倒的なポピュラリティを獲得したバンクシーの作品は一見口当たり良く解り易いが、そこには強い反体制的メッセージと権威主義に対抗しようとする強固な作家自身の信念が隠されているのである、 バンクシーファンであれば当然だが、余り美術に馴染みの無い人がこの映画を観てもバンクシーと登場する他のアーティスト達との決定的な違いは容易に理解出来るのではないだろうか、現代美術作家とペインターの違いである。

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