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水曜日のエミリア (2009)

LOVE AND OTHER IMPOSSIBLE PURSUITS/THE OTHER WOMAN

監督
ドン・ルース
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3.27 / 評価:341件

知的で的確な脚本が紡いだ人間ドラマの傑作

  • 映画生活25年 さん
  • 2011年7月13日 3時49分
  • 閲覧数 2296
  • 役立ち度 29
    • 総合評価
    • ★★★★★

埋もれていたのがあまりにもったいない傑作である。
女性向けの作品というイメージではあるが、決してその枠には収まらない人間ドラマである。

エミリアは一児の母。
と言っても継母だ。
水曜日は送り迎えをする家政婦が休みなので、8歳の息子ウィルの送り迎えをエミリアがする。
ウィルとの仲はうまくいってない。
周囲からは略奪女という目で見られることがあることも知っている。
彼女を苦しめるのはそれだけではない。

彼女とウィルの父親ジャックとの間には娘がいた。
しかし生まれて3日で突然死してしまった。
使うあてのないベビー用品をどうすることもできず、失意に沈むエミリアの心を、ウィルの言葉が乱していく。

エミリアも夫ジャックも弁護士、ジャックの前妻は医師。
弁が立ち、知能も高い。
それでも完璧な人間ではない。
それぞれの言葉は人を気遣うものもあるが、人を傷つけてしまうこともある。

こういう人々を描く脚本にはそれ相応の知性が必要である。
周到に練られ、その言葉の持つ意味と役目を最大限に活かし、キャラクターの人間像と人間性を描き出す脚本が実に秀逸で、説得力も十二分にある。
これが日本映画だとそうはいかず、会計検査院の人物を描いても知性も説得力も微塵もない。

本作で敢えて難点を挙げれば、いろいろと問題点がありすぎるところ。
略奪再婚、赤ん坊の死、義理の親子の不和、といった本作の軸となる問題以外にも様々な問題点があるところ、という意味である。
ウィルは乳製品を食べると体調を崩す体質。
エミリアの同僚は妊娠するが流産してしまう。
エミリアの父親(元判事)はかつて女性にのめり込んで家族を捨てた過去がある。
などなどだが、それでも物語に無駄なく絡んでくる。

非常にデリケートな問題を扱いながら、それぞれの言葉や表情が、人物の愚かな部分までも的確に捉える。
まず、エミリアの表情。
終盤ジャックにも指摘されるが、ウィルへの表情が冷たい。
ジャックに出会った頃の回想も織り交ぜられるが、恋愛街道まっしぐらにときめく表情とはもちろん対照的だ。
それぞれを的確に表現したナタリー・ポートマンの演技が素晴らしい。

初めてウィルに会ったのはジャックの家でのホームパーティー。
この時エミリアはウィルに声をかけない。
思えばこの時挨拶一つでも交わしていれば、2人の関係は違ったものになったかもしれない。

エミリアたちは流産した同僚の勧めで「追悼ウォーク」に参加する。
幼い子供を亡くした人々の集いだ。
その受付の係の女性とエミリアの会話が印象的だ。
係の女性も子を亡くしている。
「(亡くした子は)いつも心の中にいる」
と言う彼女に対してエミリアは何と言うか。

このような境遇の人々の気持ちは、同じ経験をしたことのない者にはわからない、いや、同じ経験を持つ人々でもそれぞれ異なるということを痛感させられるシーンだ。
またそのエミリアの発言だが、後に明らかになる彼女のある想いとも関係してくる。
そしてその想いを知った人々が、彼女にどう対峙していくか。
特に幼いウィルの「男気」溢れる行動には涙ものである。

このウィルの描き方も秀逸である。
子供だからこそ、その残酷な言葉が大人を傷つける。
子供だからこそ、その純粋な言葉が大人を癒やす。

家族という大切な絆を壊してまで男女の欲望に走ったジャックとエミリア。
彼らに愚かな部分があることは言うまでもないが、ウィルの実の母親も、仕方のない部分もあるがキツい性格の女性である。
そのような人間の負の面を、美化もせず、軽妙にすることもなく的確に描いた脚本は大いに賞賛に値する。
本作で唯一欠点がないとも言えるキャラクターがエミリアの母親。
非常に腑に落ち、心に響く言葉をさりげなく投げかける。

またエミリアとジャックの犠牲になったとも言えるウィルも苦悩ともに成長する。
彼が描く「家族の絵」が、図らずも大きな役割を果たす。

そして3日でこの世を去った愛娘イザベルだが、彼女の存在が新たな家族の絆を築くきっかけとなる。

これらストーリーテリングも実に秀逸である。
大きな盛り上がりがある物語ではないが、心の機微を絶妙に描いた脚本と演技が、本作を非常に上質で感動的な人間ドラマに仕上げた。
号泣とまではいかないが、終盤は涙が止まらなかった。
少ない上映館数でひっそりと公開するがもったいない傑作である。

詳細評価

物語
配役
演出
映像
音楽

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