映画は突然、別の次元に飛び移る
- カナボン さん
- 2011年11月3日 23時24分
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「この映画、映画通ほど騙される」
別にツウってほどではありませんが、こんなキャッチコピー、映画好きにとっては決して見過ごせませんよね。ましてや私なんか殆どのどんでん返し映画でヤラレテ来た身、しかしこのヤラレ感がタマラないんです。しかも監督がデヴィッド・ボウイの息子、ダンカン・ジョーンズ氏。「月に囚われた男」に続く劇場2作目とあっては是が非でも観ないわけにはいきませんw
今日のお題目は「ミッション:8ミニッツ」です。
列車爆発テロ犯を突き止めるため、他人の体に強制的に乗り移されてしまうコルター・スティーブンス大尉。何度も何度も爆死しながら、一歩一歩犯人に迫っていくというストーリー。
パラレルワールド、そして永遠に繰り返される時空間。過去に同じシチュエーションを用いた傑作が何本も存在します。つまり設定そのものは決して目新しいものではありません。同じ時間を繰り返す度に主人公が人間的に成長していくなんて話、ハッキリ言ってカビの生えたようなもの。
ただそうであってもこの映画には結構ジーンと来ちゃったのですよね。殊に父と息子の関係のくだり。劇中のジェイク・ギレンホールの涙の場面、もう感情移入してしまい涙腺崩壊よw
この手の映画、ネタを明かすわけには当然いきませんが、ただ一つだけ書かせていただくと、もう94分の上映時間中、二転三転どころの話ではありません。
まずは主役のギレンホールの名演を賞賛します。昔からその演技力にはかなりの評価があったお人ですが、自分の中では本作が文句なしの№1!自らの境遇に衝撃を受けながらも与えられたミッションに挑む様は観ていて神々しいほど。
怒り、苛立ち、哀しみ、慈愛、あらゆる感情の波が彼に押し寄せます。しかしどの感情をも自然と演じ分ける力量は並み大抵のものではありません。下手な役者では一歩間違えばコメディになりかねない。この映画が巧く出来ているのは、紛れもなくギレンホールが主人公を演じたからです。
「月に囚われた男」のサム・ロックウェルといい、本作のギレンホールといい、ダンカン・ジョーンズの俳優を見る目の鋭さには心底感服しますね。考えてみれば両作品の共通事項は意識の変革という点。片や一人ぼっちの宇宙空間、片や大勢の人間が取り巻く世界ということでその舞台こそは異なりますが、人間らしい生き方を追い求めるという点では同じです。「月」では数ヶ月間、本作ではわずか8分間という時間軸の違いもあれど、二人の主人公が目指すゴールはある意味同じなのではないでしょうか。
共演のミシェル・モナハン、若干お年を召された感はあれど、やはり可愛さは健在。そしてグッドウィン役のヴェラ・ファーミガ、「エスター」や「マイレージ、マイライフ」の時は正直それほど魅力的には映らなかったのですが、本作は違います。ラストのオチまで含めて彼女の演技の確かさを痛感させられました。
終盤に二度のどんでん返しがあるわけですが、感動的な作品を狙うならば最後の二つは必要ありません。正直鑑賞直後はジーンとさせたままで終わらせた方が映画的には良かったのではないかとも思いました。ただそれじゃ従来の作品と何ら変わりはないのですよね。他の方も書かれていますが、劇中フラッシュバックで何度も映し出された巨大なオブジェ、その存在が明らかになった時、映画は別の次元に飛び移る、というより生まれ変わるのです。実はこのことこそがダンカン・ジョーンズの狙いなのでしょうね。劇中この映画のミッションの内容をジェフリー・ライトが述べていますが、最後の二つのどんでん返しによって、ミッションの内容と映画のスタンスがまさしくリンクする。
騙されるということは一般的には誰もが回避したいこと。日常の生活に於いて誰もが私は騙されたいなどと思う人はいないでしょう。この騙されるという概念、そこに行き着くまでの過程が重要。いかに巧妙に張り巡らせられたトラップによってすべてが発覚した時のカタルシスが違ってくる。その瞬間、「騙された~」と思うのはまだまだ。「ヤラレタ!」と感じられれば製作側の大勝利となる。
本作は少なくともその場限りのエンタメ作品ではありません。かなり濃密な内容で色々な捉え方が出来る。
いや、恐るべしダンカン・ジョーンズ!映画の受け止め方は人それぞれでしょうが、少なくとも自分は例によってヤラレテしまいました。
ところでギレンホールのアップのポスター、何となくギレンホールがニコラス・ケイジに見えてしまったのは私だけでしょうか(爆)
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