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わが母の記 (2011)

監督
原田眞人
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3.89 / 評価:935件

解説

「敦煌」「天平の甍」などで知られる小説家・井上靖が自身の家族とのきずなを基に著した自伝的小説「わが母の記」を、『クライマーズ・ハイ』などの原田眞人監督が映画化した家族ドラマ。老いた母親との断絶を埋めようとする小説家の姿を映し、母の強い愛を描いていく。主人公の小説家には役所広司、母には樹木希林、そして小説家の娘に宮崎あおいがふんし、日本を代表する演技派俳優たちの共演に期待が高まる。

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あらすじ

昭和39年。小説家の伊上洪作(役所広司)は実母の八重(樹木希林)の手で育てられなかったこともあって、長男ではあるが母と距離をとっていた。しかし、父が亡くなったのを機に、伊上は母と向き合うことになる。八重もまた消えゆく記憶の中で、息子への愛を確かめようとしていた。

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映画レポート

(C)2012「わが母の記」製作委員会
(C)2012「わが母の記」製作委員会

「わが母の記」かけがえのない拠り所としての家族の紐帯を謳い上げた原田眞人の新境地

 冒頭、幼少時、母に捨てられた記憶を引きずる主人公の作家・伊上(役所広司)の回想に現れる、土砂降りの中、軒下で幼い二人の妹と佇む母と少年が向き合っている原初的な光景が印象的だ。この不思議な構図は、小津安二郎の「浮草」で旅芸人の中村鴈治郎と京マチ子が、やはり豪雨の中、路地を挟み軒下で激しく悪態をつき合う有名なシーンを想起させる。取り返しのつかない決定的な亀裂の証しとしての不吉な<雨>のイメージなのだ。

 会話の中でさりげなく「東京物語」が引用されるように、原田眞人が、この井上靖の自伝的作品の映画化で、往年の小津の家庭劇を意識したのは間違いないだろう。しかし、戦後の家族制度の崩壊を冷徹に見据えた小津とは微妙に異なり、この作品では、昭和という時代まで確かに存在した、<個>を優しく慰撫する、かけがえのない拠り所としての家族の紐帯が率直に謳い上げられている。認知症が亢進し、徘徊が止まない老母(樹木希林)、あるいは華やいだ「細雪」の世界を思わせる三姉妹の屈託のないエピソードの断片から紡がれるのは、亀裂ではなく和解、怒号・糾弾ではなく柔和な微苦笑に包まれたある家族の親密な年代記である。

 伊上が囚われていたオブセッションにもありうべき終止符が打たれる。宮崎あおいほか旬の女優たちの彩り、沈着で端正な画面を造型した芦澤明子のキャメラも特筆されよう。これまで豊饒なアメリカ映画体験を誇示してきた原田眞人も、あたかも<日本回帰>を遂げたかのような抑制した慎ましい語り口で新境地を見せている。(高崎俊夫)

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2012年4月26日 更新

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