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ウォーリアー&ウルフ (2009)

狼災記/THE WARRIOR AND THE WOLF

監督
ティエン・チュアンチュアン
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  • みたログ 64

2.29 / 評価:24件

「面白く」ない。ただ、「好き」だ

  • lamlam_pachanga さん
  • 2014年12月28日 19時37分
  • 閲覧数 990
  • 役立ち度 4
    • 総合評価
    • ★★★★★

本作は09年製作のアジア合作映画(中・香・新・日)で、井上靖の短編「狼災記」を原作に、中国第五世代の巨匠・田壮壮(ティエン・チュアンチュアン)が撮りあげた伝奇ドラマです。

第五世代は80年代に多くの才能を排出し、彼らの活躍により、それまではごく一部しか知られていなかった大陸映画が世界へ広まっていくことになります。陳凱歌(チェン・カイコー)、張芸謀(チャン・イーモウ)、黄健新(ホアン・ジエンシン)、馮小剛(フォン・シャオガン)、孫周(スン・ジョウ)、そして顧長衛(クー・チャンウェイ)など、中国映画好きなら、これらの名前を聞いたことがない人はいないはずです。

田壮壮は、そんな才能豊かな第五世代において、特に中華圏において最も尊敬され、その才能を評価される映画人として知られます。それは『青い凧』(93年)の製作により彼が受けた理不尽な制裁(10年の映画活動禁止)への同情でもありましたが、彼が撮る映画がたたえる独自の映像世界への素直な評価でもあるでしょう。

そんな田壮壮の映画にオダギリジョーの主演が決定した際、私はどうせ日本のスポンサーの口出しだろうと勘ぐり、辟易したものです。しかし、田壮壮本人によると、彼を選んだのはあくまで監督自身であり、それは共演のマギー・Qも同じだそうです。「映画の撮影において言語が障害になることはない」そうで、それはつまり、撮るべき“映像”さえ共有していれば、言語上のコミュニケーションに頼る必要はないということでしょう。

古代。北方の異民族との戦いは果てしなく、両軍は春から秋にかけて戦い続け、冬が訪れた凍土の支配者は狼であった。兵卒の陸沈雷(オダギリジョー)は戦いを嫌い、人を殺めることを怖れる心優しき男で、ある日遭遇した狼すらも殺さずに飼いならしてしまう。指揮官の張安良(庹宋華)はそんな陸に目をかけるようになり、二人は絆を深めてゆく…。

正直、田壮壮の映画は「面白い」、「つまらない」の二者択一なら、後者のものばかりです。それは本作も例外ではなく、ここでの評価が芳しくないのも、私は当然だろうと思います。実際、大陸や北米での公開後も「訳が分からない」という声は多かったですし、日本の小説が原作でありながらも、封切まで二年も要した映画です。

但し、それは観客が娯楽要素ばかりを期待し、配給側もそれを煽る宣伝文句を並べたことによる、ある種の誤解によるものだったのではないでしょうか。

当時(現在もですが)、中華圏は合作映画の大ブームで、作られるのは大作活劇がほとんどでした。大半の観客も、この映画に期待するのは『レッドクリフ』(08年)のような活劇だったのでしょう。なのに、蓋を開けてみれば、そこで展開されるのは“人間性”と“獣性”の狭間に揺れる、ひとりの男(オダギリジョー)の観念の物語。当然、画面は陰鬱で暗く、物語自体、決して消化しやすい類のものではない。

確かに、「面白い」とはいえません。

ですが、「好きだ」とはいえます。

例えば、冒頭の、まるで“世界に見棄てられた”かのような、あの荒涼とした画。そこで戦う兵士たちの表情は、太陽は差し込んでいるのにまるで見えない。どこの誰かも分からず、果たしてそれが“人”であるのかも分からない。日々、戦い、怯え、殺し、そして誰かが息絶え、残りは生き続ける。この画は、物語後半の舞台となる卡雷族(ハラン族)の村まで、終始一貫しています。

例えば、ワダ・エミの衣裳。原作の影響か、日本では「時代は秦」と明記されますが、田壮壮は「時代設定はない。映画は古代中国の辺境の地」とだけ語っています。そんな、つまりは時代考証のゆるされない一種のファンタジーの世界において、兵士たちの衣裳も、異民族の衣裳も、卡雷族の衣裳も、女(マギー・Q)の衣裳も、全然違和感がない素晴らしさ。田壮壮の想い描く世界を、ワダ・エミも“映像”として共有していたのでしょう。

そして、物語。これは、“世界に見棄てられた男”と、“世界に見棄てられた女”が出会い、“人間性”を棄て、“獣性”にその身をゆだねる物語。心優しき男と、孤独の内に生きてきた女が、その結末を知りながらも、心に生き、身を棄てる物語。

『ウォーリアー&ウルフ』は、伝奇的な物語を驚くほどのリアリティで描いた映画です。

何度もいいますが、ここの評価の通り、全く「面白く」ありません。

ですが、私は「好き」です。

詳細評価

物語
配役
演出
映像
音楽

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