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人生はビギナーズ (2010)

BEGINNERS

監督
マイク・ミルズ
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3.45 / 評価:477件

センスの良さを感じる不器用で優しい映画

  • koj***** さん
  • 2015年5月27日 0時36分
  • 閲覧数 2510
  • 役立ち度 34
    • 総合評価
    • ★★★★★

劇場公開時(調べたら2012年の2月)に一度観たきりで、今回久しぶりに見直してみた一本。当時も「あぁ、好きだなあ」と思った作品だったが、3年ぶりに観てもやっぱり「良いなあ~」としみじみ。
派手ではないが、洗練されたセンスの良さを感じる静かな良作。ユアン・マクレガーが演じた主人公・オリヴァ―の父親・ハル役のクリストファー・プラマー(当時82歳)がアカデミー助演男優賞を史上最年長で受賞したことでも話題になった。

時折挿まれるオリヴァ―の少年時代の回想シーンでは、ハルの顔が決して映されない。オリヴァ―の覚えている父の姿は、いつも母におざなりに(見える)キスをして仕事に出掛けて行く後ろ姿だけなのだ。子供の頃のオリヴァ―にとって、父親というものがとても遠い存在だったことが伝わってきて、ちょっぴり痛々しい。オリヴァ―が本当の意味で”父親”と過ごせたのは、ハルがゲイをカミングアウトしてから亡くなるまでのほんの数カ月だけだった。

父と確執のあった息子が、父の死期に際して和解する物語というと、ティム・バートンの『ビッグ・フィッシュ』を思い出す(こちらではユアンの方が”お父さん”だね)が、こっちの息子・ウィルには父の死の喪失感を分かち合ってくれる人(母や妊娠中の妻)がいた。
けれど、本作のオリヴァ―には誰もいない。強いて言うならハルの愛犬だったアーサーがいるが、彼は「言葉は150も知ってるけれど話せない」。そんな喪失感を隠していたオリヴァ―の”寂しげな目”に唯一気付いたアナに、彼がどうしようもなく惹かれてしまうのは当然のことなのだ。

オリヴァ―がアナとの同居を諦めてしまった(アナ流に言わせれば「私を去らせた」)のは、彼が用意した棚にアナが私物を“入れていなかった”のを見てしまったから。
ここで決して彼女を非難しない(「君が棚に物を入れてなかったから」と言わない)オリヴァ―は優しい。
自宅にクローゼットもない(服は吊るして置いているだけ)アナは、きちんとした“入れ物”に物を入れるのを躊躇うのだろう。入れ物に物を入れてしまうことは、「そこに定住する(留まる)」という意思を示すことになるからだ。

色んな地を転々と“流れてきた” アナにとって、 “留まる”決断をするのは相当の覚悟がいることだ。それは、人との深い接触を避けてきた人生を終わらせて、ある一人の人(=オリヴァ―)と深く付き合っていく人生を新たに歩むことに他ならないから。
棚を示された時はその覚悟をすぐにはできなくて、行為に持ち込むことでうやむやにしてしまったのだろう。
でも、「私を去らせた」との発言から、アナはオリヴァ―との新しい人生を歩むことに肯定的だったのは分かる。ただ、それを形にするのにもう少し時間が必要だっただけなのだ。

その「時間」をオリヴァ―は待つことができなかった。空っぽの棚を見て、「ああ、やっぱりダメなんだ」と早とちりして諦めてしまったのだ。
彼の心情も痛いほど良く分かる。
よそよそしい両親、自分の手を握ってくれたこともない父親、その父に対する不満からエキセントリックな行動を取る母親。少年時代から人生を達観していたオリヴァ―には「自分の思い通りに上手くいくことなんか何もない」という諦めの思考が身についてしまっている。だから、何か“上手くいきそうなこと”が起こっても、「いや、そんなわけないだろう」と自ら打ち消してしまうのだ。

幸福を望んでいるのに、いざその幸福が手に入りそうになると途端に怖くなって、あんなに欲していたはずの幸福を自分の手で壊してしまう。オリヴァ―もアナも、とても繊細で不器用で、人と深く付き合うのが怖くて、でも相手をよく知りたいと思っている。
戸惑いながらも、今まで避けてきた新しい人生を歩み出す似た者同士の二人。彼ら(=ビギナーズ)の姿を捉える目線は、どこまでも優しい。

詳細評価

物語
配役
演出
映像
音楽

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