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奪命金 (2011)

LIFE WITHOUT PRINCIPLE

監督
ジョニー・トー
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3.59 / 評価:59件

杜峰の再出発

  • lamlam_pachanga さん
  • 2013年11月2日 11時42分
  • 閲覧数 687
  • 役立ち度 5
    • 総合評価
    • ★★★★★

本作は11年製作の香港映画で、世界中の映画マニアに愛される(一般の映画ファンには無視される)杜琪峰(ジョニー・トー)が手がけた犯罪ドラマです。

最初にこの映画の製作を知った時に『奪命金』と言う題名(原題も同じ)を聞いて、「ん?」と思いました。実はこの題名は、杜琪峰のファンなら知っているかもしれませんが、この人が80年に撮った処女作『碧水寒山奪命金』のもじりなんです。だから、「30年経ってリメイクするのかぁ」と、一人で勝手に勘違いしてました。

この題名は映画の主題や内容を表しているだけで、映画そのものはリメイクでも何でもありません。ただ、インタビューなどを読むと本作撮影にあたって杜琪峰が自分の30年を総括...と言うか、ちょっと仕切り直しをしようと考えたのは事実みたいで、“再デビュー”の意味合いからもこの題名にしたようです。

その決意は、とても分かりやすい形でこの映画に投影されています。

キャスティングです。

確かに、劉青雲(ラウ・チンワン)、任賢斎(リッチー・レン)、張兆輝(チョン・シウファイ)など、いわゆる“杜班(トー組)”と呼ばれる常連俳優も何人かは起用されています。しかし、この映画にはあの林雪(ラム・シュー)が一度も登場しないんです。林家棟(ラム・カートン)も、任達華(サイモン・ヤム)も、林熙蕾(ケリー・リン)も、馴染みのある面々が全く登場しない。これが異常事態であることは、杜琪峰と彼の映画を追い続ける方ならわかるはずです。

特に林雪を外した意味は大きい。

これは、杜琪峰が変化を期待したと言う明確な意思表明です。

正確には変化と言うよりリセットでしょうが、30年が経過し、香港映画の随一の巨匠と言う地位に立った自分と、その彼が愛する香港も大きく様変わりしたこのタイミングで、一度身軽になりたかったんだろうと想像してます。

では、前置きが長くなりましたが、あらすじを紹介します。

西九龍警察の張正方(任賢斎)は投資目的でマンション購入を迫る妻(胡杏兒)に手を焼きながら、捜査を理由に今日も決断を先延ばしにする。萬通銀行の投資アドバイザーを務めるテレサ(何韻詩)は営業成績が伸びずに悩む日々。顧客に対しリスクの高いBRICsへの投資を進めることにも躊躇する。チンピラの三脚豹(劉青雲)は今日も使い走り。仁義だけを大事にする無能な男は兄弟分の保釈金を用意しようと街を奔走する。そんな中、ギリシャで債務危機が発生。株の大暴落が現実となる...。

脚本の構成は複雑です。

と言うか、この手の商業性を丸っきり無視した映画に慣れてない人には、全然面白くない映画だと思います。

主人公は四人の男女(劉青雲、任賢斎、何韻詩、胡杏兒)ですが、それぞれに表面的な関係性は全くなく(任賢斎と胡杏兒は夫婦役ですが)、しかも登場する場面の時間軸が入り組んでいるので、少しよそ見をするだけで映画から置いていかれることになります。これらの余白(映画には描かれないこと)を観客の想像へ託す演出は杜琪峰の常とは言え、今回のそれは過去作以上に観客のことを考えていません(笑)

杜琪峰の特徴は“現実社会を非現実的描写で寓話として描く”ことです。

これまでの彼は、自身が「習作」と呼ぶ作家性を反映した映画の中で、それを銃撃戦に投影してきました。一部にはそうでない映画もありましたが、何れにせよ、どこかで類似する表現を用いていました。しかし、この映画ではそうした表現からも離れようとしています。

この映画は、観客に映画で描かれる部分と、描かれない部分を脳内で補完することを求め続けます。溜飲の下がるクライマックスは訪れず、金に翻弄される香港市民の姿がそこに描かれ続けるだけ。物語がそう展開することへの「なぜ?」を観客は探し求め、そして答えは映画の中ではなく、外にある。

人生における状況の打開は、決して約束されたものではない。

『奪命金』は、そんな映画です。

詳細評価

物語
配役
演出
映像
音楽

イメージワード

  • 知的
  • 絶望的
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