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グスコーブドリの伝記 (2012)

監督
杉井ギサブロー
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3.60 / 評価:490件

今の日本でよくぞこの映画を制作したなと

  • hippo_morning さん
  • 2012年8月8日 14時37分
  • 閲覧数 335
  • 役立ち度 12
    • 総合評価
    • ★★★★★

この映画は、グスコーブドリの伝記という原作を「モチーフ」に、宮沢賢治の心象風景を制作者側の解釈を踏まえて描き出したものであると受け取りました。

実に、実に素晴らしかった。
私も、幼少時に「銀河鉄道の夜」を見て、非常なショックを覚えた人間です。
何度も繰り返し鑑賞し、人生の一本に選びたいほどのファンです。
杉井ギサブロー監督の手腕には感嘆したものですが、実は監督の前作の「あらしのよるに」を拝見したときは、すっかり子供向け映画を作る人になったのだろうか、と残念に思ったものでした。
そして今回のグスコーブドリ、その前作の印象に加え、他の方の低評価を見るにつけ、観たら後悔するのではと危惧していたのが観る前の心持でした。

しかし、いい形で裏切ってくれました。
あの傑作「銀河鉄道の夜」には及ばないのは確かですが、それでも監督独自の宮沢賢治の世界観を存分に魅せていただいたという満足感に、嬉しさを覚えました。
見始めてしばらくは、幻想と現実の混沌具合に面喰ったり不可解さを覚えたものでしたが、その幻想の描写の素晴らしさに魅入られて、それに漂っている間に考える余地が存分に生まれてきます。
初見の映画を観ながらにして考察が始まる。
これはもう私には大変充実した映画体験になりました。

私は、ブドリの幻想に賢治の心象風景を見ました。
賢治の妹への激しい愛やその死に打ちひしがれたこと、天災や飢饉を嘆き悲しみ、必死にそれと戦おうとしたこと。
賢治の生き様がブドリに重なって、心が震えるほどでした。
当初、あの幻想世界は死者の世界かと思っていたのですが、厳密にはブドリの心のうちに巣食う死者や、天災により失った世界への執着や懺悔だったのではないかと。
死を覗き込まずにいられないブドリの心象だったのではないかと感じました。
現実世界では、ブドリは農業や学問に身を投じたりしてからくも生きていますが、その心はずっと暗い過去の幻想にとらわれていたように思います。

人さらいによって裁かれるその罪の在り処は、ブドリ自身が生きながら死にとらわれている、その心にあったのではないでしょうか。

人さらいが体現していたものは、その時々によって微妙に違っていたように思いますが、一貫して、ブドリの心象の現身だったように思います。
ブドリが、真に人のために、自らを犠牲にして行動をとる覚悟をしたとき、それまで敵のようであった人さらいは、彼の行動の助け手となります。

この映画のクライマックスは、まさにこのシーンでしょう。
一人、研究室で思い悩むブドリの心に響く、子供の頃の「雨ニモ負ケズ」の朗読。
あのシーンに、ブドリの、ひいては賢治の心象が強く、強く、こちらに訴えかけ、自然と一粒流れた涙に、私自身驚いてしまいました。

クライマックスを迎えてしまったので、肝心の火山に向かったのちのシーンはぼかされてあっけないラストになってしまったのは、多少失敗したかな…という印象もぬぐえないのですが。

それでも、ここまで骨太、かつ文芸作品として優れたアニメ映画が、近年あったでしょうか。
制作側は、この説明のぶっ飛びさ、原作の著しい改変や独自の解釈などを強行した点から見て、はなから興業成功も一般客からの高い評価も度外視しているでしょう。
こういう映画が、まだ作れるとは。
これは、伝わるやつにだけ伝わればいい、そういった創り方です。
私は、伝わるやつだった。それだけのことです。

ただし残念に思った点も確かにあります。
音楽に、どうしても細野晴臣さんを連れてきていただきたかった…!
小田和正はいらなかった…!
ラストの火山のシーンはもうちょっとうまくできた気がする…!
以上ですw

「銀河鉄道の夜」に☆5をつける手前からして、この映画はやはり少し劣る、それでも確かにすばらしかった点から、☆4になりますね。
まだ一回きりしか見ていないので、細かい描写からまだまだ発見があるはずです。
残念ながらもう公開が終わってしまうので、レンタルになったらまた必ず見ようと思います。
私は、この映画を一般に高く評価してもらいたいとは思いません。
分かる人間だけが、周りから邪魔されずにウフウフして考察したり浸ったりできればそれで…。
そんな狭い映画です。人に薦めたいとも特に思いません。
最後に一言、ああ、観て楽しかった。

※くだらない感想「ジョバンニに…!友達がいる…!(涙)」

詳細評価

物語
配役
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音楽

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