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苦役列車 (2012)

監督
山下敦弘
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3.30 / 評価:721件

解説

貧しい肉体労働青年の青春を描いて第144回芥川賞を受賞した西村賢太の小説を、『マイ・バック・ページ』などの山下敦弘監督が映画化。1980年代後半を背景に、19歳の日雇い労働者で、酒におぼれる主人公を中心に、その友人、主人公があこがれる女性の青春模様を描く。主演を『モテキ』の森山未來が務め、ほかに『軽蔑』の高良健吾、AKB48の前田敦子が共演。独特の世界観を持つ原作に挑戦するさまざまなジャンルの作品を手掛ける山下監督と、旬の俳優たちによるコラボレーションから目が離せない。

シネマトゥデイ (外部リンク)

あらすじ

1980年代後半。19歳の北町貫多(森山未來)は日雇い労働で得た金を酒に使い果たし、家賃も払えない生活を送っていた。他人を避けながら孤独に暮らす貫多だったが、職場で専門学校生の日下部正二(高良健吾)と親しくなる。そんなある日、古本屋で働く桜井康子(前田敦子)に一目ぼれした貫多は、日下部に取り持ってもらい彼女と友達になるのだが……。

シネマトゥデイ (外部リンク)

映画レポート

(C)2012「苦役列車」製作委員会
(C)2012「苦役列車」製作委員会

「苦役列車」過酷な現実から身を守る程度にタフであれ、したたかであれ

 底辺を生きる卑屈な青年が、軽やかにアレンジされた労働歌「線路は続くよどこまでも」とともに動きだし、不器用に彷徨する。酒でむくんだ顔でくだを巻く森山未來が、山下敦弘ワールドに置かれたとき、不思議な現象が起きた。原作にあったダメ男をとことんキャラクター化する自虐の可笑しみを超え、誰のなかにも在る動物的な本性が普遍化されて、愛おしいまでの存在に昇華した。

 バブル期の都会の裏の顔。しかし、ことさらに時代性に言及しないことで豊かな解釈を生む。自堕落な生態が、失われた健全な青春の闇に思えてくるのだ。森山未來が体現するリアルは、今への大いなるアンチテーゼになり得ている。生きるとはまず、肉体という厄介な生理を維持することだ。腹を満たすために働き、頭を刺激するべくタバコを吹かし、心を紛らわそうとアルコールを浴びて、性の捌け口を求め悶々とする。欲望に忠実で金にルーズでも、働かないという選択肢はなく、生活保護になど救いを求めない。妬みは激しく悪態をついて疎まれるが、誰でもよかったとつぶやいて社会を逆恨みするなどという愚行は犯さない。どっこい、それでも生きている。

 原作にないエピソードが効いている。風俗嬢しか女性を知らぬ青年は、前田敦子が下着姿で海へ走り出す様を目の当たりにしてもなお、友達でいられるのか。歌手の夢を諦めかけた同僚マキタスポーツがカラオケのマイクを手にするとき、主人公に向上心のスイッチが入る。逃げて生き延びる物語ではない。過酷な現実から身を守る程度にタフであれ、したたかであれ、と本作は語りかけてくるかのようだ。希望はその先に仄かに見えてくる。(清水節)

映画.com(外部リンク)

2012年7月5日 更新

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