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アシュラ
2012年9月29日公開

アシュラ

752012年9月29日公開

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4.0

ネタバレ人を殺し、食人した「けだもの」アシュラ!

(1) 舞台は戦乱と飢饉の室町時代。京は焼け、荒れ果てている。室町時代、15世紀末。女が廃寺の中で、一人、子(アシュラ)を産む。女は人肉を食う。そして狂い、子を火の中に捨てるが、激しい雨が降り、子は助かる。 (2) 8年後、子(アシュラ)は日照りによる飢饉のなか、まさかりで人を殺し人肉を食って生きる。言葉を知らず、食人する獣(ケダモノ)のような子ども!通りかかった僧を襲って食おうとするが、子は僧に負ける。 《感想》ここで獣(ケダモノ)とは、「共食いする動物」の事だ。「動物」=獣(ケダモノ)ではない。アシュラは食人(「共食い」)するので獣(ケダモノ)だ。一般に「食う食われるの関係」は異種間で普通に成立する。(食物連鎖!)同種個体間で無制限に「共食い」が行なわれたら種の保存に反し進化的に安定しないので、「共食い」は少数だ。 (2)-2 子(アシュラ)は飼われる犬と同じだ。僧が飯(エサ)をくれ、優しいので、僧に従う。「命ある者も、お前にはすべて敵(食い物)かもしれない」。しかし「助け合って生きるのが人間だ」と僧が言う。 (2)-3 僧は「南無阿弥陀仏」の言葉を伝える。子は意味も解らず「ナムアミダブツ」と言う。また僧が、子に「アシュラ」の名を与える。 (3) アシュラは「食人するな」と言われても、僧と別れれば、再び人を襲い食人して生きる。ただアシュラは「ナムアミダブツ」と「アシュラ」の語だけは発音する。 (3)-2 ある日、「アシュラ」は地頭の一人息子に石を当てられて怒り、その息子を殺す。地頭は激怒し、アシュラを追い詰め谷に突き落とす。だがアシュラは助かる。谷底は死体捨て場(風葬)で、死体がクッションになったからだ。 (4) 荘民の娘、若狭が傷ついたアシュラを助け、山中の小屋でアシュラに食事を与え介抱する。犬が人になつくように、アシュラは若狭になつき、言葉も若狭から教わる。(※公領内の住民である「公民」に対し、荘園内の住民=農民が「荘民」) 《感想》若狭は「美人」だ。アニメで女性は十中八九、「美人」だ。「男社会」の無批判な肯定か?だが若狭の「美しさ」は、「心」の美しさを、「外形」に投影したものかもしれない?また「女の美しさ」が珍重されるのは神代からだ。醜い磐長姫(姉、イワナガヒメ)はニニギノミコトから家に帰されてしまう。美しい木花咲耶姫(妹、コノハナサクヤヒメ)だけが妻として残った。神代から「男社会」だ。男は体力が勝り「戦士」であり、として権力も握った。だが「美」の観念(イデア)が人間には成立するから、「美」の認識は、「男社会」と無関係でもある。 (5) 若狭には恋人・七郎がいた。アシュラは嫉妬し、七郎に切りつけ、負傷させる。若狭は怒りアシュラに「ヒトデナシ」と言う。アシュラは出て行く。アシュラは「こんな世の中に生まれてこない方がよかった」と絶望し世をうらみ、人を殺し食って生きる。 (6) アシュラは再び、かつて会った僧に会う。「お前の心のうちの『けだもの』と戦い、『ひと』になれ」と僧が言う。 《感想》「ひと」とは何か?「ひと」とは相互に共感しうる存在同士の事だ。「けだもの」とは何か?他者を(「ひと」ととらえず)、利用すべき手段、材料(Ex. 食料)、人間以下・虫けら(「ヒトデナシ」)としてとらえる者のことだ。 (6)-2 僧は、「お前が人を食いたいなら、私の腕を食え」と自分の腕を切断し、アシュラに差し出す。アシュラは拒否する。 (7) やがて干ばつがやって来た。作物は取れず、多くの村民(荘民)が餓死していく。若狭も死ぬ寸前だった。それを知ってアシュラは若狭に肉(人肉)を持っていく。だが「人の肉は食べられない」と若狭は拒否する。そして若狭は結局、餓死する。 (8) 若狭の葬式の日、アシュラは地頭・荘民たちに発見され、追われる。アシュラは逆襲し地頭を殺すが、自分も谷底に落ちる。だが再び彼は、生き延びる。 (8)-2  アシュラはやがて、仏門に入った。(彼は後に高僧となる。) 《感想》若狭の死をきっかけに、アシュラは人を殺し食うことを一切やめたはずだ。そして彼は、僧の集団に入っただろう。僧は乞食し、布施によって何とか食える。アシュラは、人の世の残酷・残虐を知る。同時に、若狭の死から「ひと」とは何であるかについて知った。「ひと」とは相互に共感しうる存在同士の事だ。この共感できる能力が「仏性」(ブッショウ)だ。Cf. 「仏性」は、キリスト教の「愛」(アガペー、神の愛)に相当するだろう。 (9) 映画は、青年僧となったアシュラが仏像を彫るシーンで終わる。 《感想》青年僧となったアシュラがあまりに「さわやかな顔」なので、評者は愕然とする。あれだけ人を殺し、食人した「けだもの」アシュラは、自分の過去を直視し苦悩するはずであって、あんな「さわやかな顔」になれるわけがない。

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