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その夜の侍 (2012)

監督
赤堀雅秋
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3.06 / 評価:872件

記録は残る

  • yab***** さん
  • 2016年11月26日 9時56分
  • 閲覧数 1999
  • 役立ち度 5
    • 総合評価
    • ★★★★★

 不条理で理不尽な世界。その権化のような木島。そして、平凡な毎日を全力で築き上げてきた中村。
 木島は中村の妻を轢き逃げし、刑に服して5年経ったが、反省の色はからっきしもない。その5年もの間、中村は妻の死を認めることができず、妻が最後に遺した留守電に入っている、「プリン食べ過ぎちゃだめよ」という声をずっと聞きながらプリンの大食いをしている。

 不条理で理不尽な世界は絶対許せない。こんな世界には絶対負けたくないと思う。でも、その不条理がえてしてまかり通る。理不尽が平凡な毎日に侵食してきて、いつのまにか我がもの顔で闊歩する。だから陰湿ないじめはなくならない。警察や教師や管理者の監視をかいくぐって、不条理や理不尽が勝利の雄叫びを挙げる。
 他人を轢いて殺しておいて、「あんなのシューマッハでもよけきれない」という思考回路の木島である。

 台風の夜の木島と中村の決闘シーンでの中村が木島に吐き捨てる言葉が印象的だ。
 「7月16日朝、セブンイレブンのツナとタマゴのサンドイッチ 昼、セブンイレブンのざるそばと牛丼 夜、魚民で酒を飲む 君の人生がここにある 君は本当に何となく生きてるよ この物語は最初から君には関係ない話だった」。

 理不尽なことをされた人間は、理不尽なことをした人間に対してやむにやまれない気持ちを、日記やメモで残す。会社でもパワハラな行為を繰り返す上司に対して、日記や記録を残している部下やその妻の話を聞いたことがある。いざという時にその記録をつきつけて、刺し違いしてやろうという思いを持っている人間を知っている。

 記録やメールは、裁判とかで争ったときの有力な武器になる。しかし、中村は、木島の他愛もない食生活を記録することによって、彼を糾弾したり貶めようとする感情はない。それでも、人間として何も考えていない木島の本質に言及しようとしている。でも残念ながら、それは木島の心には響かない。それは徒労に終わる。

 しかし、記録は残る。いや、残すことで、木島には伝わらなくても、木島の無意味な人生は記録できる。轢き逃げして人を殺して、残された人間に対しても何の罪悪感も感じない人間の低俗さは記録に残せる。
 そうやって、人間は不条理で理不尽な世界に立ち向かわなければならない。それは、下手すると報われずに気泡と化す行為に終わるのだが、幸せな平凡を維持するための人間の報復は必要不可欠であるし、その無償の行為が再生に繋がると思わざるをえない。

詳細評価

物語
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映像
音楽

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  • 切ない
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