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王様とボク (2012)

監督
前田哲
  • みたいムービー 115
  • みたログ 509

2.23 / 評価:282件

小粒も深み重みあり。考えさせられる秀作。

  • 映画生活25年 さん
  • 2012年10月7日 3時33分
  • 閲覧数 2994
  • 役立ち度 29
    • 総合評価
    • ★★★★★

12年間の昏睡から目覚めた少年を巡る物語。

18の誕生日を迎えたばかりのミキヒコ(松坂桃李)には常に気がかりなことがある。
6歳の頃、一緒に遊んでいたモリオ(菅田将暉)がブランコから転落、以来12年間昏睡状態のままである。
目の前で起こった事故の光景が忘れられず、またもちろんモリオのことも忘れられない。
そのモリオが突然目覚める。
「奇跡の少年」とマスコミに騒がれるが、もちろん彼の知能や記憶は6歳のまま。
家族も離散しており、施設に預けられた彼は、日々こっそり抜け出しては近所の小学生と交流を持つ。
一方ミキヒコは大学生となるが、モリオへの想いが断ち切れない・・・。

一緒に遊んでいた時の事故。
防げたかもしれない。
ブランコに乗らなければ良かったのに。
事故に遭ったのは自分だったかもしれない。

この12年間、さまざまな想いにさいなまれたのだろう。
自分は成長し、恋愛もして、大人になっていく。
でもモリオは体は成長はしても心は子供のまま。
自分だけが大人になっていいのだろうか。
そして大人になるとはどういうことなのか。

そんな罪悪感と疑問を抱えながら生きるミキヒコ。
彼を見つめるのはその時一瞬に遊んでいた友人トモナリ(相葉裕樹)の母親(松田美由紀)と、少々にぎやかすぎる恋人のキエ(二階堂ふみ)。
陰ながらミキヒコを支えるが、解決までは導けない。

大学を辞めてまでモリオと寄り添おうとするミキヒコだったが、彼を癒やすことはできないと痛感し、自分の無力さを知る。
彼の癒しになったのは近所の小学生たちだったのだろう。
だがそんな子供たちも、子供にしかできない苦労をしながら、大人になる準備をしている。
そんな準備も何もなく、突然大人になってしまったモリオ。
母親に会うことも叶わず、ひたすら孤独感を募らせていったのだろう。

一見明るく軽妙に見えながらも、そんな彼らの心情やそのすれ違いが、さりげなくもジワジワと伝わって来る。
過去を消すかのように窓を拭くミキヒコの姿と、未来を前向きに見つめるかのように窓に絵を描くキエの姿の対比が象徴的だった。

丹念に描かれているところは多いが、終盤の解釈は観る者に委ねられている。
泣き崩れるミキヒコの姿や、ラストのモリオの姿から、私はある悲劇的な解釈をしているが、私が考えているほど厳しいものでもないのかも知れない。

男子キャスト目当てで鑑賞した女子高生は「800円くらいでいいんじゃない?200円返して」という残念な感想を述べていたが、本作は非常に重く、そして深い作品である。
単にキャスト目当てで軽く明るい作品を期待して観に行けば、残念な感想になるのも無理はない。

そういう私も「ブタがいた教室」は素晴らしかったが「極道めし」が今一つだった監督・前田哲以上に、10年後、日本のトップ女優になっていることが確実な実力派女優・二階堂ふみ目当てで鑑賞した部分が大きい。
本作のキャラは耳障りなほどに明るい女の子。
実力通りに見事に演じているが、本作については彼女以上に男性演技陣が見事だった。

今週も主演作「ツナグ」が公開された松坂桃李。
以前は軽薄でチャラチャラしたイメージが強く評価していなかったが、「麒麟の翼」では好演していた。
本作ではさまざまな感情に悩み葛藤する様子が見事に表現されていた。

モリオを演じた菅田将暉は初めて見るが、なかなかのものだ。
単純に子供っぽく無邪気に演じるだけでなく、その戸惑いや孤独感もしっかり表現していた。

登場人物それぞれが複雑な家庭の事情を抱えているが、それらを最小限に抑えて表現した点は、掘り下げが足りないと取られるかもしれないが、私は主題をしっかり見つめるにはこれでよいと考える。

若い女性客が多かったが、キャスト目当てで爽やかなものを期待すると、見当外れにガッカリすることになるかもしれない。
疑問もあるが余韻を残すラストも見事で、それぞれの心情に想いを巡らされるのだが、そんな時に「200円返して」などと言われるとガックリくる。

小粒な作品ではあるが、深みも重みもあり、考えさせられる秀作である。

詳細評価

物語
配役
演出
映像
音楽

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