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もうひとりのシェイクスピア
2012年12月22日公開

もうひとりのシェイクスピア

ANONYMOUS

PG121292012年12月22日公開

kis********

4.0

ネタバレ現代に甦ったゴシック文学だ!

 フランスロマン主義文学の長編『レ・ミゼラブル』の大ヒットの陰に隠れた感があるが、予想以上に楽しめた作品だ。  「シェイクスピア別人説」を前面に押し出しているが、この作品そのものは遠謀のめぐる悲劇的ゴシックロマン(文学)だと思う。  「処女王」として有名な女王エリザベス一世の秘められたロマンスが引き起こした禁忌な愛憎劇(近親相姦)を絡めながら、史実から想像できる範囲内で、チューダー王朝終焉の時を重々しく描いている。  さらに、本作品では、父子二代にわたってイングランド国民の嫌われ者(奸臣)として描かれた初代ソールズベリー伯、宰相ロバート・セシル(ロバート)をシェイクスピア悲劇『リチャード三世』の主人公グロスター公リチャードに模している。  ここにも、脚本の妙があり、史実はリチャード三世がヨーク王朝最期の王で、チューダー王朝にとって変わるわけだが、本作品では、リチャード三世に模せられたロバートがエリザベス一世(チューダー王朝)に引導を渡し、彼女が嫌っていたとされるジェームズ一世が即位(スチュアート王朝)するといったアイロニーがある。  クライマックスの宮廷シーンでは、オックスフォード伯エドワード・ド・ヴィア(エドワード)と静かに対峙するロバートのとてつもなく深い落胆の悲しみと怒りから湧き出たであろうひと筋の涙に、敬愛した亡父ウィリアムへの愛情とその願いを果たせなかったことに対する痛恨の思いを見る。私は、このシーンにこそ最大の悲劇(見せ場)を見た。  同様に、エリザベス一世と特異な関係にあるエドワードやサウサンプトン伯ヘンリー・リズリー(ヘンリー)との結末は『リア王』さながらだろう。  寵愛したエセックス伯ロバート・デヴルーの処刑や、エドワード、ヘンリーを失った彼女は、獄中で殺された最愛の娘コーディリアの遺体を抱きながら、悲しみの余り絶命したリア王のようだ。    このように、シェイクスピア作品を数冊読んだ者であればわかるプロットをはじめ、シェイクスピアへのオマージュに溢れている。同じく、イギリス史に興味のある方なら楽しみは倍増するだろう。  もちろん目を見張る美術や衣装など、映像的にも素晴らしいことはいうまでもない。  個人的には、エドワードの臨終のエピソードは蛇足だと思うが、原題が“Anonymous(匿名の)”である以上、それはやむを得ないのだろう。  それは、ある意味“Spell(おまじない・呪縛)”なのかもしれない。  

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