レビュー一覧に戻る
もうひとりのシェイクスピア
2012年12月22日公開

もうひとりのシェイクスピア

ANONYMOUS

PG121292012年12月22日公開

Kainage_Mondo

5.0

新生エメリッヒ監督 に刮目すべし。

CG頼みの映像。雑で強引な語り口が十八番のはったり屋。これまでの諸作のおかげで、そんな悪印象しかなかった ローランド・エメリッヒ監督である。今回は作法を変えて臨んだと聞かされても、根性までは変わるまい。そんな気持ちで観た本作だったが、これが ! 素晴らしかった ! 1月半ばにして早くもベストテン入り候補作に出会えようとは ・・・ 感動とともに、エメリッヒ監督に土下座でもして謝りたい気持ちだ。 現代のとある舞台 ・・・ デレク・ジャコビ が口上を述べる。シェイクスピア直筆の戯曲や詩篇が一つとして発見されないのは何故か ? これから仮説に基づいて云々 ・・・ この口上が作品全体の、良い意味での 額縁 となった。そして舞台はエリザベス1世統治の16世紀後半へと滑らかに移行する。 当時の泥々の道がいい雰囲気だ。道に板が敷いてあってその上を歩く。芝居小屋がチャーミングだ。2階には座席もあって劇作家仲間や貴族も座るが、観客の大多数は立ち見であり、舞台前の土間に犇めく。役者と庶民が一体となって盛り上がる ・・・ 特に Anonymous 匿名作者 ( リス・エヴァンス ) が戯曲を供し始めてからの熱狂ぶりが心地良い ! 当時の芝居小屋の雰囲気は斯くやあらんと、嬉しくなってしまうのだ。 「ヘンリー5世」「ロミオとジュリエット」「ハムレット」「マクベス」「十二夜」そして「リチャード3世」・・・ 何度も映画館へ通った キャピュレット家の仮面舞踏会のシーン。レナード・ホワイティング の台詞が、意味よりも音階として甦って来る。そう ! そうだったそんな台詞だったよな~ オリヴィア・ハッセー とふたりが ・・・ 脱線もほどほどに ( 笑 )。それぞれの戯曲の “触り” が一瞬観られるだけで、立ち見席の群衆に負けないほど嬉しくなってしまった ! 楽しみの第一はこれ。 ヴァネッサ・レッドグレーヴ 扮するエリザベス女王の貫録もさることながら、レッドグレーヴの実の娘 ジョエリー・リチャードソン 扮する若き日のエリザベス女王 彼女がなかなか色っぽくてね~オックスフォード伯爵が恋に落ちるのも当然だろうけど、この辺り、隠し子また隠し子、出自の秘密また秘密、そんな重層状態が貴族社会の権力争いのどろどろとシンクロしてゆく恐さときたら、ね~ ! 楽しみの第二はこれ。 詩篇や戯曲で世の中を変えてみせる、文字は剣に勝るのだと理想を語っても、冷徹な政治屋の権謀術数のまえには無力を曝け出してしまう。残酷な結末はずしりと重い。それでいて、これら珠玉のような作品群が書かれたこの時代に生きたことを誇りに思う、という劇作家ジョンソン ( セバスチャン・アルメストロ ) の言葉に胸が熱くなってしまう。楽しみの第三はこれ。 これら三つのお楽しみに限らず、様々な思い入れで楽しむことが出来る物語だと思う。悪役 ? のロバート・セシル ( エドワード・ホッグ ) に終盤、活躍の場を与えた公平さは好もしかったし、女王をめぐる人間関係が明らかにされて、どうしようもない無力感と悲劇性が際立った。 VFXを用いて城郭や橋や街並みを見事に再現して魅せ、スケール感を出したのも良かった。得意技のCGを封印したままだったのが偉かったな~ ( 笑 )。

閲覧数1,511