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たとえば檸檬 (2012)

監督
片嶋一貴
  • みたいムービー 39
  • みたログ 83

3.42 / 評価:57件

境界性パーソナリティ障害を取り入れた作品

  • geg******** さん
  • 2013年1月27日 0時00分
  • 閲覧数 5173
  • 役立ち度 17
    • 総合評価
    • ★★★★★

 境界性パーソナリティ障害の女性が主人公という映画です。
(当方、境界性パーソナリティ障害のノンフィクション「境界に生きた心子」を書いています。
 http://mixi.jp/show_profile.pl?id=4324207&from=navi)

 母親の呪縛から抜け出そうともがき、母親の死さえ望むカオリ(二十歳・韓英恵)と、奔放に振る舞いながら、陰では激しく苦悩する香織(40才・有森也実)。
 何の接点もない二つの話が並行して進んでいきますが、やがて二人の予想外の関係に観客は気付き、引き込まれていきます。

 そのストーリー構成や、最後に解き明かされる因縁は見事です。
 母娘の歪んだ愛情と救いがたい憎しみ、連鎖する葛藤がテーマの作品です。
 母親の無惨な最期もありますが、そこから悲劇の連鎖を断ち切る一抹の希望が指し示されます。

 片嶋監督と脚本家の吉川氏は、あくまで母娘の愛憎の映画を作りたかったのでしょう。
 しかし僕としては、やはり境界性パーソナリティ障害がどう描かれるのかという観点から観てしまいます。

 その意味では期待外れでした。
 この映画では、パーソナリティ障害は後付けの感があり、万引きや性依存などがパーソナリティ障害という間違いやすい印象を与えかねません。

 映画ではBPDの発症の時期が不自然と思われますし、幻聴や極端な幻覚(妄想)は統合失調症レベルの症状です。
(BPDの人は、過去の記憶が塗り替えられて心的事実ができ上がってしまうことはありますが、現在存在しないものが聞こえたり見えたりするのは、BPDの症状ではありません。)

 香織を境界性パーソナリティ障害と診断する女医(内田春菊)も、「こんな医者は嫌だ」というお笑いで扱われるようなものに感じました。
 香織にイエスノーで答えさせる定型の質問(「他人に見捨てられるのは恐い」他)をしたり、答を強要したり。
 でもこの女医は、病気を治せる医者として登場しています。

 以下は、女医による境界性パーソナリティ障害の説明です。
「総合的に判断した結果、境界性人格障害の疑いが濃厚と思われます。
 ボーダーラインとも呼ばれています。
 神経症と精神病の狭間にあって、分類が極めて困難な症例です。
 多くの場合、幼少期に受けた精神的ダメージが原因と言われています。
 特に母親がボーダーの場合、子供もその影響を強く受ける傾向があります。
 取り敢えず1週間分のお薬を出しておきます。」

 BPDに関わっている人たちの間では、今どきこんなことは言う医者は笑い物です。
(「“人格”障害」という言い方も。)
 神経症と精神病の境界という分け方は何十年も前の話ですし、原因は第一に先天的なものであって、子育てに問題がない誠実な親は沢山います。

 父親でなく母親がボーダーだと、子への影響が強いという話もあまり聞いたことがありません。
 それに、「1週間分のお薬」って何でしょう?

 グループセラピーも患者には受け入れがたいもので、作品の中でも香織は腹を立てて出て行ってしまいます。
 映画の打ち上げのとき内田春菊が、「香織の病気を酷くしてすみませんでした」と言ったら、若いスタッフから「そうだよ」という声が上ったそうです。
 睡眠療法で記憶を辿るという治療も、現在では不適切でしょう。

 「たとえば檸檬」の解説記事などを読むと、この映画は母娘の愛憎がテーマの企画という以前に、韓英恵と有森也実で何か映画ができないか、というところから始まったそうです。
 そこから母と娘の葛藤というテーマになり、そこへ脚本家が、関心を持っていた境界性パーソナリティ障害を加えたということです。
 後付けであるために、扱い方が中途半端で、矛盾やずさんさも生じてしまったと思われます。

 この映画はあくまで母と娘の話にすべきで、BPDは入れないほうがよかったと思います。
 それだけで立派な物語として成立するのではないでしょうか。

 ただ逆に、BPDだとしたほうが、すっきり解釈できる部分もありました。
 母親の自滅は娘を救うための愛なのか、自分の苦しみによるエゴなのかという局面があり、作品では愛よりもむしろエゴだと解釈しています。

 しかしBPDであれば、愛とエゴは表裏一体であり、どちらかのひとつではありません。
 同じものが一瞬にして反転し、一方の極端な面だけがその瞬間ごとに現れるに過ぎないのです。

 いずれにしても、BPDも作品に取り上げられるようになってきたわけですが、より深く正しい作品が作られることを願っています。

詳細評価

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