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はじまりのみち
2013年6月1日公開

はじまりのみち

962013年6月1日公開

yam********

4.0

この母であればこそ。そしてこの家族なら。

静かな情感が流れる。それなのに、生命力がこんこんと力強く湧き出てくる。 遠景に、近景に、美しく映し出される景色。音で表現される自然。  映画のセリフにもあるが、戦争の影も感じさせない、昔からこの時まで、そして今にも続く、変わりのない風景。 それでも、空襲がひどくなり、疎開を余儀なくされる状況。 軽口をたたき、肉付きの良い便利屋は、いつか自分にも赤紙が届く日を思う。  そんな、ある意味、命の瀬戸際に立たされている便利屋が、『陸軍』を見て自分の家族を重ね合わせ、ご馳走・カレーに夢を馳せ、年頃の女性を見れば気をひこうとする。  死をどこかで覚悟しながらも、今を生きている姿。 木下監督を東京の住まいで支えている時に、脳溢血で倒れ半身不随となった母。  半身不随になってもさらに、かわいい次男だけにでなく、長男の嫁をもいたわる器。  半身不随という、ある意味暗の部分を持ちながらも、凛と生きる姿。光をみる。 そんな母に対する次男の想い。 不器用な生きざま。加えて失意のただなか。 そんな次男を包み込む兄と兄嫁、父、妹たち。 カタルシス場面はあるが、小さなエピソードが坦々とつづられていくだけの映画。 だが、なぜだろう。 死と再生までは言い過ぎだが、鑑賞後、”生”への賛歌が体からあふれかえってくる。 遠景と近景のバランス。 静で穏やかな木下家と動でにぎやかな便利屋等のバランス。物語をぶれさせずに、笑いをとる。しかも、笑いだけの存在ではなく、便利屋の存在そのものが、時代の象徴・生の証。 『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』でも見せた手腕が健在。 木下監督の母・家族だけでなく、便利屋や宿の人までもが暖かい。 こうであったらと願う理想の原風景。 加えて、木下監督の映画のコラージュ。それぞれの登場人物の生きざまが綴られていく。 いろいろなことが、世の中で起こっても、大丈夫だ、なんとかなるさ、さあ、立ちあがろうと思えてくる。 映画としては、ちょっと物足りなくもあるのだが、 たまに、この映画に帰ってきたくなる。 不思議だ。 他のレビューでも賞賛されているが、出演されている役者すべての方が、それぞれの持ち味・立ち位置を十分輝かせて、いい仕事をしている。必見。

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