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シャニダールの花 (2012)

監督
石井岳龍
  • みたいムービー 171
  • みたログ 587

2.51 / 評価:367件

『ネオウルトラQ』没作引き延ばし映画疑惑

  • 真木森 さん
  • 2013年9月7日 22時08分
  • 閲覧数 1764
  • 役立ち度 8
    • 総合評価
    • ★★★★★

9月になりました。振り返って、この夏に見た劇場公開映画は揃いも揃って低調でしたね。そんな中の一本、友人曰く「まさかの終末期もの!」の本作のレビューです。
 そういう訳で突っ込みどころ満載なのは他の識者によるレビューをご覧ください。私も「ボリス・ヴィアンの『うたかたの日々』をパスティーシュした作品かなあ」「ともかく女性の胸に花が咲くというのは何かの寓意だろうから、まあ、あまり茶々を入れず推移を見ておこう」と余裕を持っていたのですが、段々と眉間にしわが寄ってきます。「…も、もしかしたら、本気SF設定…?」その嫌な予感はズバズバ的中していき、そしてまさかのラストシーン、友人の言葉に尽きる驚愕のラスト。この「驚愕」というのは「見事に騙された!」「何ていうどんでん返しだ!」という意味での「驚愕」ではなく、「今頃になってこんな使い古された結末を得々として使おうとする作家がいるとは!」「それにしてもここまで持ってくるのと余りに乖離した中盤までの思わせぶりは一体!?」という「驚愕」です。結局「女性の胸に花が咲く」という設定はどうでも良いことになってしまい、普通に鉢植えとか路地にもシャニダールの花が咲き、そしてあのエンディング。まあ百歩譲って「醜いものは皆消えて無くなれ」というヴィアン精神は反映されていたでしょうかね。
 それでも根本的なヘンテコ作品だったという訳ではなかったです。主演の綾野剛は今をときめくイケメン俳優で知り合いの女の子も「フアンなの♪」って騒いでいたので記銘していました。『ガッチャマン』でも評価を下げて再び友人の言によれば「もっと仕事を選べよ!」で、まあ本作でも無駄に怒号をあげたりして良く言えば熱演、悪く言えば空回りでしたが、でも人気が出るのも分かる気がしましたね。実力に見合った持ち場が与えられていないと言うことでしょうか、破綻寸前の本作の説得力を少しは保ってくれたと評価します。それからBS日本映画ch「マイリトル映画祭」でお馴染みの黒木華が出てきて、「これは相方も…」って思ってたら案の定刈友衣子も出てきて「何だろう、プロダクションのブッキングだろうか」と訝しみましたが、でも本作の美しいのに気持ち悪い感触にマッチしていて映えていましたよ。「大瀧と美月が何の伏線もなく恋仲になるなんて許せない!」っていう意見もあるようですが、それはアヤノゴウオタのヒステリーだと断ち切って、私は普通にストンと落ちました。大瀧が恋愛感情とも何とも付かない心模様で田村ユリエや菊島キク、そして立花ユリエと対峙していくのはかつてのATG映画の文法にも似ていて懐かしかったですね。そして美月響子の胸にも花が咲く。彼女は花を最後まで咲かせ続ける道を選び、彼の前から消える…。ここからボリス・ヴィアン的な方向に物語が収束していけばミニシアター系映画の佳品として成功したものを。石井岳龍監督「聰亙」時代の『水の中の八月』や『ユメノ銀河』くらいのクオリティになったのに、残念です。
じゃあ本作の何がダメだったのかというと、物語を信じ込ませるケミストリーが足りなかったと言わざるを得ません。岳龍監督「聰亙」時代の作品もまた穴だらけで破綻し続けるストーリー、モラルなんかぶっ飛ばせの世界だったのですが、そこにパンキッシュな勢いと理屈抜きの求心力があったが故にスコーンとした会心作たり得ていた訳です。本作のゆっくりしたテンポの中じゃ、どうしたって古舘寛治が怪しいと思うでしょ。登場人物が限定されていて、石井監督の美点、群舞演出が施されなかったら花が蔓延していく切実感はゼロ。監督も撮った『ネオウルトラQ』の3作目として取り上げれば時間的にも物語の規格的にも引き締まって、力業で物語を信じ込ませることも出来て丁度良かったのに。こう書いてみて、本当に『ネオウルトラQ』ボツ脚本を拾い上げたという仮定ギャグがシャレにならないほどに当を得ているので、「本当にそうだったんじゃないか」って我ながら書いて恐ろしくなってきました。無理矢理なSF設定をショートストーリーで信じ込ませるのはウルトラシリーズお手の物でしたからね。
 という訳で、私の中でも評価が大きく振れる映画になりました。でも最初の指摘に戻って、ああいう終わらせ方をしちゃあ今時の目の肥えたシネフィルには嘲笑ものですよ。それこそ本家円谷プロの『マタンゴ』とか、諸星大二郎さんの少年ジャンプ手塚賞受賞漫画の『生物都市』と同じじゃないですか。そしてこれら40~50年前の作品の方が今見たとしてもずっと衝撃的で深くて古臭くないという事実。やっぱり厳しく裁定しなくては。誰に見せたいのか。何を伝えたいのか。今この作品を作る動機は。石井監督ほどの人でも「物作りの根源」を見失ったときに困った作品を生み出すことがあるのです。次回作やTVの小品に期待して待ちましょう。

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