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共喰い (2013)

監督
青山真治
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2.79 / 評価:712件

思いのほか面白く観る事ができた。

今回取り上げるのは2013年の日本映画『共喰い』。同年のキネマ旬報ベストテンで日本映画の5位に選ばれた。原作は2012年に発行された田中慎弥の同名の小説で、芥川賞受賞という話題性で20万部も売れるという大ヒットを記録した。原作の田中さんは主人公の遠馬(菅田将暉)と同年代で、この映画化に大変満足したという。
監督の青山真治は、日本映画を語る時に「EUREKA」などで必ず出てくる名前だがこの人の映画を観るのは初めてだ。脚本の荒井晴彦は様々な話題作を手がけているベテランで、私が観たのは監督も担当した「この国の空」、脚本を担当した映画としては「時代屋の女房」や「大鹿村騒動記」があり、「Wの悲劇」や「湯殿山麓呪い村」をテレビで観たことがある。

舞台は昭和63年の下関市で、戦後の開発から取り残された地区である。映画の顔となるのは橋がかかる川の風景だ。昭和の末期らしく、下水が直接流れ込みゴミも目立つが生き物の姿も多い。潮の干満で川の水位が上下するのが(インターバル撮影が面白い)、主人公の激情を醒ますような効果を生んでいる。
冒頭のモノローグで「自分が17歳の時に父親が死んだ」と語られるので、父親・円(光石研)は回想シーンとして登場するのかと思ったが、実際は父親が死ぬまでを時系列に沿って描いている。光石が人格破綻者の父親役を演じる映画を観るのは「ヒミズ」に続いて2作目である。同情の余地のない人物だが、死ぬ場面ではなぜか可哀想と思ってしまった。

本作には容認できない暴力的な場面が登場し、被害に遭うのが女性というのがキツい。父親の円は女性との性行為中に相手の顔を殴ったり首を絞めたりし、それによって性的興奮を高めるという性癖がある。そのため愛人の琴子(篠原友希子)の顔は痣だらけだ。高校生の遠馬はそんな関係を知りつつ、父親に生殺与奪の権を握られているためか反抗できない。
なぜこんな暴力的な映画を評価するかというと、遠馬は円を嫌悪しつつ決して醜いいがみ合いには発展しないこと。親子の間で卑猥な会話はあっても、暴力沙汰や言い争いのシーンは全くないのだ。遠馬は円の血が流れているから、自分も同じ暴力衝動を秘めていることを恐れている。私は映画を通して様々な自分と対話するが、自分と遠馬をどこかで重ねているのかも知れない。

遠馬は千種(木下美咲)という利発な恋人がおり、彼の父親の行状を知りつつ付き合っている。近所の子供たちの反応から、二人が町の人々公認の仲であることが分かる。二人は神社の倉庫を逢引きの場としており、父親の件で苛立った遠馬が腹いせに千種の首に手をかけてしまう。激怒した彼女はいったん遠馬に別れを告げるものの結局よりを戻すことになる。
琴子と千種、二人の女性キャラを演じる女優さんがどちらも非常に上手い。琴子は水商売の女性でこれまでろくな経験がなく、人懐っこい笑みを浮かべつつ人生を諦めている節がある。千種が遠馬と別れないのは、自分が惚れた男を立ち直らせるという女性特有の心理であろう。映画後半ではとんでもない目に遭うのだが、血まみれになりながら冷静さを失わないのが切ない。

もう一人欠かせない女優が田中裕子だ。円の元妻で遠馬の母親である仁子を演じている。「ふがいない僕は空を見た」の原田美枝子でも思ったが、ベテラン女優が実力にふさわしい活躍をしてくれるのを見ると嬉しくなる。仁子は川の反対側で魚屋を営んでおり、戦時中に空襲の被害に遭って左手首の先を欠損している。昭和とは戦争の影がいまだ色濃く残る時代であったのだ。
彼女は左手に特製の義手を装着し、それを使って魚をさばいている。遠馬に対しては円の暴力的な性癖が受け継がれていることを気にしつつ、自分が引退したら魚屋を継いで欲しいとほのめかすなど、息子としての愛情は持っている様子。仁子の義手はクライマックスに思わぬところで活躍する。ここぞという場面で凄味を見せる田中の演技は見事のひと言だ。

逮捕された仁子を遠馬が面会に訪れる。恩赦があるかも知れない、あの人が死ぬまでは自分も死ねない、あの人が始めた戦争で自分はこうなった・・・そんな会話が交わされる。あの人って円のことか?あの状況で生き残っていたのか?と混乱していると、昭和天皇の病状の報道が音声で流される。ここで昭和が終わろうとする時代なのだと思い出し、仁子の気持ちがすべて腑に落ちる。
この時代で思い出すのは休日の朝にTBSで「仮面ライダーBLACK」を見ていたとき、オープニングで昭和天皇の病状がテロップで流れた記憶である。そういえば菅田将暉も仮面ライダーシリーズに出演経験があった。
これから登場人物がどんな人生を歩むのかはわからないが、悪の心を持った人間には報いがあり、自分の悪と戦う主人公や恋人にはハッピーエンドが訪れるのは気持ちがいい。しんどい内容なのに鑑賞後の感覚は爽やかであったので、私的評価は★5つである。

詳細評価

物語
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