ここから本文です

さよなら渓谷 (2013)

監督
大森立嗣
  • みたいムービー 227
  • みたログ 1,356

3.18 / 評価:803件

解説

『悪人』『横道世之介』などの原作者として知られる芥川賞作家・吉田修一の小説を、『まほろ駅前多田便利軒』などの大森立嗣監督が映画化。幼児が殺害された事件をきっかけに暴かれる一組の夫婦の衝撃的な秘密を描きながら、男女の愛と絆を問う。愛と憎しみのはざまで揺れるヒロインの心情を、『ベロニカは死ぬことにした』などの真木よう子がリアルに体現。その夫役には『キャタピラー』などの大西信満がふんするほか、大森監督の実弟である大森南朋をはじめ、井浦新、新井浩文ら実力派が名を連ねる。

シネマトゥデイ (外部リンク)

あらすじ

緑が生い茂る渓谷で幼児の殺害事件が発生し、容疑者として母親が逮捕される。隣の家に住んでいる尾崎俊介(大西信満)がその母親と不倫していたのではないかという疑惑が、俊介の妻かなこ(真木よう子)の証言によって浮かぶ。事件を取材する週刊誌の記者、渡辺(大森南朋)がさらに調査を進めていくうちに、尾崎夫妻をめぐる15年前の衝撃的な秘密にたどり着き……。

シネマトゥデイ (外部リンク)

映画レポート

(C)2012 KIM Ki-dok Film All Rights Reserved.
(C)2012 KIM Ki-dok Film All Rights Reserved.

「さよなら渓谷」腐れ縁にはまっていく男女の心の気色と景色がじわりと立ち上がる

 「さよなら渓谷」文庫版に映画監督柳町光男は印象深い解説を寄せている。小説家吉田修一に感じる映画の血の濃さを辿る監督は、過去の性的暴力が物語の核心に置かれた点で「ミスティック・リバー」を、加害者と被害者の関係という点で成瀬巳喜男「乱れ雲」を想起し、男と女が「死に場所を探すように電車を乗り継ぎながら」繰り広げる「道行き」を同じく成瀬の「乱れる」と重ねてみせる。そうやって小説から「映像を頭の中で編み上げる」監督の一文にふれれば幻の柳町版への抑え難い妄想も募る。

 いっぽうで大森立嗣監督のメガホンで完成した映画「さよなら渓谷」には、鈍色の空の下、冬に向かう季節の荒涼を、いっそもっともっとと求めるように歩みを止めない女がいて、黙って後を追う男がいる。そのざらりとした「道行き」の情景のそそり立ち方。小説とも、そこから想われた映画ともまた別の肌触り。“連想ゲーム”にあえてこだわるのなら70年代半ばの負け戦の気分。ジュリーの歌。♪堕ちてゆくのもしあわせだよと――腐れ縁にはまっていく男女の心の気色と景色がじわりと立ち上がる。それは「ケンタとジュンとカヨちゃんの国」「まほろ駅前多田便利軒」とニューシネマ的バディ・ムービーを差し出してきた大森立嗣ならではの原作の色づけ方を思わせる。その意味では男と女の背後を追う記者の存在も見逃せない。大学野球の星だったひとりの転落と、社会人ラグビー選手生活を負傷で棒に振ったもうひとり。どろりと澱んだ日々の空しさを贅肉とした記者の裸体を鏡に切り取る映画は、彼が加害者の元体育会エースに表裏一体の自分を重ねる様を本筋然とみつめる。前作「ぼっちゃん」にもあったブサイクとイケメンの背中合わせの関係がここでもまた掘り下げられている。緑の渓谷。夏の川原。忘れたい過去と向き合う男と男の物語がひっそりと紡がれて、男と女のそれに拮抗し監督の世界を改めて射抜いている。(川口敦子)

映画.com(外部リンク)

2013年6月20日 更新

本文はここま>
でです このページの先頭へ