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もうひとりの息子 (2012)

LE FILS DE L'AUTRE/THE OTHER SON

監督
ロレーヌ・レヴィ
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  • みたログ 393

4.05 / 評価:195件

もう少しの説明で、すぐに傑作と思えたはず

  • 深海魚 さん
  • 2014年3月6日 23時13分
  • 閲覧数 1092
  • 役立ち度 10
    • 総合評価
    • ★★★★★

対立関係にあるイスラエルとパレスチナに暮らす家族の間で取り違えられた息子たちをめぐる物語だ。先に公開された『そして父になる』を鑑賞する前から、本作と『そして…』の鑑賞を心待ちにしていたので、二作品を比較してしまうことはやむを得ないと思う。

両作とも、取り違えられた二人の息子より、それぞれの両親の心情にスポットを当てて描かれていたが、本作の方がセリフによる説明に頼ることなく、「映像」でしっかりと描いていた。しかも本作は、鑑賞直後は良作としか思えなかった作品なのに、パンフの解説を読んだ後に「傑作」に昇格した作品だ。


予告編で高さが8メートルもある「分離壁」を見たときは、地域的にも宗教的にも相容れない関係にある両家が本作に緊張感を与え続けるのだろうと、不謹慎な言い方だが「期待してしまっていた」が、本編では通行許可証のエピソードや壁の内外の生活レベルの差だけが目立ってしまい、分離壁のもつ精神的な壁としての意味があまり描かれていないように思えた。また、ヨセフ(ジュール・シトリュク)が改宗しなければならなくなったエピソードに意味を見出せず、冗漫にさえ思えた。むしろ、作品の中に宗教の違いを絡めてしまったために、「取り違え」という本作のテーマの焦点がぼけてしまって、作品としての力が非常に弱まってしまっているような気がして残念だった。

しかし、パンフの解説を読んで、本作の感想が大きく変わった。イスラエルとパレスチナに関する理解が深まっただけでなく、両家の母親の愛を描くことで人類愛に通じるメッセージを描こうとしていたことがわかったのだ。本作は、単に「取り違え」という惨事を描いているのではなかった。もし、鑑賞前に「ユダヤ人」と「アラブ人」の違いをもう少し理解できていれば、鑑賞直後に本作を「傑作」と思えたかもしれない。


ユダヤ人とかアラブ人という表現は、「人種」ではなく、言語や宗教の違いから生じる「文化的、政治的な分類」を表している。したがって、顔つきや髪の毛の色などの身体的な特徴から両者を区別することはできない。本作でのユダヤ人とはユダヤ系イスラエル人のことで、アラブ人とはパレスチナ人のことだ。

ヨセフが「自分はアラブ人だった」と知ったとき、ユダヤ教の宗教指導者から「再改宗」が必要だと告げられるシーンがあるが、鑑賞中は、なぜユダヤ教を信じてきたヨセフが今さら改宗をしなければならないのかが理解できず、必要ないエピソードなのではと思っていた。しかし、パンフを読んでみると、実はこのシーンが本作にとって非常に重要なシーンだということがわかった。

イスラエルには「ユダヤ人ならばイスラエルに移民できる」という「帰還法」と呼ばれる基本法がある。帰還法が定義するユダヤ人とは「ユダヤ人の母から産まれた者、もしくはユダヤ教に改宗し他の宗教を一切信じない者」だ。したがって、アラブ人の母から生まれたヨセフが、イスラエルで、育ての親の元で暮らし続けるためには「再改宗」が不可欠だったのだ。


両家の両親がハイファの病院で再会したとき、ユダヤ人の母オリット(エマニュエル・ドゥヴォス)とアラブ人の母ライラ(アリーン・オマリ)は、政治的に作られた分離壁の高さなどを物ともせず、二人の息子たちの立場や心情をすぐに理解し、すべてを受け入れて、写真を交換し合った。一方、父親たちは、状況を理解し、受け入れようとする姿勢を見せず、部屋から立ち去ってしまった。このシーンからだけでも、体面や立場を重んじる父親が示した行動からは何も生まれないことが伝わってきた。無条件でお互いを尊重し、目の前の事態を受け入れる姿勢が、パレスチナ問題をはじめとする数々の紛争を解決する糸口になることを、本作はすでにこの時点で明確に提示していたことになる。

両家の母親の「息子たち」へのまっすぐな思いに心が打たれる。「分離壁」の内側(パレスチナ側)のアラブ人の母ライラが、玄関前でヨセフの身体に触れながら声をかけたようすと同じように、壁の外側(イスラエル側)のユダヤ人の母オリットもヤシン(マハディ・ザハビ)の身体に触れながら話しかけていた。両家の母親は、母性としての絶対の愛にあふれていることがよくわかるシーンだった。


しかし、これらの事情は、パンフを読んでようやく理解でき始めたことだ。ユダヤ人とアラブ人の違いや帰還法などについて、もう少していねいに描いてもらえると作品全体が理解しやすくなるので、本作の魅力が上がる気がした。


2014年1月4日鑑賞 ☆4.6

パンフ:『そして父になる』と比較して記憶に残すために買った。本作の中でのパレスチナ問題の位置づけがよくわかった。

詳細評価

物語
配役
演出
映像
音楽

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