小さいおうちの中に時代の空気が生きている
- ゆきがめ さん
- 2013年12月29日 2時42分
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タキという女中の目から見た、東京のある家族の物語です。現代なら、まぁ、良くある話なのでしょうけど、戦争に突入する頃から戦争中の時期、自分の夫の部下である青年に好意を持ってしまうという事は、やっぱり、色々問題があったのではないかと思いました。男性が国の為に命を落としているのに、色恋沙汰なんて、不謹慎だって言われるだけでなく、命までも危なくなったかもしれない。
映画の中で、226事件の時期だろとか言うセリフが出てくるのですが、軍部の力がどんどん強くなっている時期であり、特別高等警察(特高)などという、恐ろしく残酷な警察がいた時代に、もし、不倫などという噂が流れたら、目を付けられて、罪など起こしていなくても、目障りだと言う事で、何かの罪で逮捕されていた事でしょう。そんな時代だったと思います。
そんな暗い時代なんですけど、小さいおうちの家族は、とても明るく暮らしていて、それは、他の家から見れば、幸せな家族に見えた事でしょう。父親は、おもちゃ会社の重役であり、時子の親族を見ても、家柄の良い一族に見受けられました。その家の女中に入ったタキは、家族の温かさに触れ、女中と言いながらも、とても幸せな生活を送っていました。特に、時子奥様には、特別な思いがあったように見えました。
ある日、夫のおもちゃ会社に、芸大出のおもちゃの設計デザインをする青年が入社してきます。板倉は、時子の夫には無い、クリエイター的な感覚がある人であり、会社より人を大切にするような人間でした。時子は、そんな板倉に好意を持つようになり、段々と近づいていきます。でも、昭和初期の事なので、やっぱり、頭の中には、家を守り、夫に付いていくという考えを捨てられず、板倉に好意を持ち始めている自分に対して、罪悪感を抱いているように見えました。
タキは、いつも時子に寄り添っているので、時子の気持ちが痛いほど解り、板倉との仲を、静かに見守ります。でも、いつも心の裏には不安があり、誰にも気が付かれないようにと気を配っていたのです。愛する奥様だし、愛する家族なので、家族が壊れたり、不幸になるような事だけは避けたいと、自分が守りたいと思っていたんです。それは、自分を温かく迎えてくれた家族だし、大切にしてくれた奥様だから、その恩に報いたいと思っていたのかも知れません。
戦争は、悪化の一路を辿り、生活は困窮して行きます。そんな時に、とうとう板倉に赤紙が届きます。明日にも、遠くに行ってしまう板倉に、一目会いたいと思う時子と、それをしてしまったら、ご近所の目に不倫の事が知れてしまうと恐れるタキとの気持ちがぶつかり合います。家族を守る事が出来るのか、時子の思いは届くのか、映画を楽しみにしてくださいね。
今の不倫と違い、とっても奥床しくて、もしかして、不倫と疑われたけど、ただ会っていただけで、何も無かったのかも知れない。そんな風に思える2人で、時代を感じさせる映画でした。戦争時の日本が、どんな状態であり、人の心が、どんな風だったのか、そんな事も、結構、詳しく描かれていて、家族の映画なのかと思いきや、昭和の時代の日本の状況、人々の精神などが、良く解ります。
私は、この映画、とてもお勧めしたいと思います。色々な愛があって、色々な思いがあって、それを、全て背負って、戦後も長く生き続けた人も居たのだと、知って下さい。とても良く出来た話です。笑える部分もあり、ちょっと考えると、すごく恐ろしい部分もあり、良く考えられています。最初は、セリフ回しなどに違和感を感じるかも知れませんが、今とは時代が違うので当たり前なんです。時代と言うものを考えてみて下さいね。
楽しんできてください。
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